彼女とは話が合って、心を開いてしまった。
それから一時間程馬車に乗った。
「こちらは暖かいですね。」
「そうだね、アルヴァ。花も色とりどりで咲いているね。」
兄の言葉に、
「ま、今日は二月だからまだ寒いかな。ウチはまだ中央寄りだから、そんなにリンデ国とは変わらないけれど…」
叔父が同意する。
「南のはしっこに行けば行くほど暑いよ。」
デビッド兄さんが歌うように言った。
「海沿いだね。」
「海沿い…」
「ああ、リンデ国にはないかもね。アルヴァは海を見た事はないんじゃないか?」
「いいえ、叔父様。前世ではありますわ。」
「あ、そうか!うちの曾祖父さんも前世持ちという話だったな。
早くに亡くなったからあまり逸話は残っていないけれど。」
「ええ…。母から聞きましたわ。」
「俺も海を見たいな!」
「お兄様。」
「海の向こうは世界の果てで、水が下に溢れているのだって?」
「…そう言われていますわね。」
…この世界は中世みたいな事を言ってますわね。
そのうち船を仕立てて、世界が丸いと証明してみたいですわ。
そう言ったのはネロリだった。
ええ、そうね。貴女とは話が通じて楽しいわ。
私が王子妃になったら進言しましょう。コロンブスやマゼラン?みたいに新大陸を発見できたり、船で世界を一周出来るかもしれないわ。
…良いですわね。
お互いに前世日本人だと話が合って楽しいですわ。
この世界を…知識を使って…もっと暮らしやすくしたいですわ…。
ええ!!ネロリ、私も頑張るから、貴女も力を貸してね。
………はい。もちろんですわ。
その時、彼女は笑っていた。その時からもう私と成りかわるつもりだったのか。
思わず唇を噛み締める。
「アルヴァ、色々と思うことはあるだろうが。とりあえず今は休め、なっ?」
ポン。
兄が私の肩に手を置いて来た。
「ええ、わかっています。」
「あの女狐のことは気にするな。私も目を光らさせてレオナルド様やヒナコ様に接触させないように気をつける。」
そして、悪い笑みを浮かべた。
「ラディル様はどうなっても知らんがな。」
「…はい。」
ラディル様の名前を聞いて少し胸が痛む。
少なくともネロリが現れる二年前まで私達の仲は良好だったのだ。
私はラディル様が初対面のいつまでも小さな子供に見えて。
つい保護者の気持ちで世話ばかり焼いていた。
彼が課題をサボったら優しく嗜めて。
外国語を覚えられた時は、一緒に復習した。
それから、褒めて伸ばしたり簡単な資料を作ったりした。
そう、無意識に前世でやった新人教育に近い事をした訳だ。
だけど。
やはり私は実年齢は幼い少女であり、いつも一緒にいる少年に恋をしたのだった。
レオナルド様みたいに、近寄りがたい美貌や姉に対するツンデレな態度をなさる御方よりも、穏やかで親しみやすい少年の方が好きだったのだ。
そういえば…前世の彼もそんな感じだった。
大人しくて、人畜無害という感じで。
声を荒げたり人と争ったりしない人だった。
中肉中背で人に威圧感を与えなくて。
誰からでも良い人、と呼ばれていた。
もちろん、女性だからといって見下したりしない。安心して側にいられた。
彼が仕事で単身赴任になり、それでも何とか繋いでいたキズナは、
「ごめんね。やはり近くにいる相手の方に情が移るんだ。
キミに早く言わなくてはと思ってはいたけれど。」
と言ってあっさり断ち切られたのだった。
「私にも優しい人は他の人にも……そして、自分にも優しかったって事よね…」
「アルヴァ?」
「ううん、何でもないの、お兄様。ラディル様はご自分で選ばれたのだから。」
…ウチの家の後ろだてを無くすことをね。




