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女神の祝福なんて知らない。  作者: 雷鳥文庫


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11/12

母の故郷、南の国。

 叔父の館に着く。

入り口にはソテツの木と…アロエが植えてある。中庭の噴水からは水が溢れまわりの植物達の濃い緑色の葉っぱを濡らしていた。

南国の風情がいっぱいだ。


記憶の中から房総や南九州のイメージが蘇る。

暖かさが私の心のわだかまりを溶かしてくれるようだ。


「さあ、中にどうぞ。」


「お久しぶりですわ、マルゥ叔母様!それにサラサさんにジン君!」

出迎えてくださった叔父様の奥方様と従兄弟達に挨拶をする。

サラサさんは14、ジン君は13歳だ。


大きくなった。二年ぶりですものね。

みんな黒髪の巻き毛に深い緑色の瞳。私と同じ。


「こうしてるとホントの兄弟みたいですね。」

ポツンと兄が言う。兄は父に似ていて、濃い金髪と青い目だ。


この世界では女神が美の基準だ。

私が前世でギリシャやローマの彫刻を見て、あれが美しいのだと…デッサンをしてきたようなものだ。

(少なくとも昭和の美術室ではそうだったのだ。)


なので兄は美しい。レオナルド様やシルヴァン姉様ほどでは無くても。

その兄が黒髪巻き毛の私達を羨ましそうに見ている。


「…本当に。お会いするのはイザベラ義姉様の葬儀の時以来ですわ。

まあなんて、イザベラ義姉様にそっくりになって…!」

涙ぐむマルゥ叔母。

母の遠縁で仲が良かったと聞く。


「……シルヴァンの事があってイザベラ姉さんは意気消沈した。

それから1年後に亡くなって。

北の国は姉さんまで殺したようなものだ。」

叔父の目は怒りに燃えていた。


「叔父様…」


「さあ!中に入って!まずお茶をいかが?私がパイを焼きましたのよ!」

サラサさんが中に誘う。


テーブルには南国の花が飾られて、パイナップルがはいったパイと香り高い紅茶をいただく。

「…美味しい…よくお母様が作ってくださったパイだわ。」

「ああ、アップルパイよりコチラが好きだな。」

兄も相好を崩す。


こんな優しい表情の兄を見たのは久しぶりだ。


「…ゴーディ様に喜んでいただけて光栄ですわ。」

サラサさんの頬に赤みが差す。

「…サラサ姉さんはゴーディ様がお気に入りなのかい?」

ジン君がやれやれと言う顔をした。


「だって…王子様みたいに素敵ですもの。」

「…!失礼。」

紅茶を飲んでいた兄が思わずむせた。


「…そんな事言われたことが無かったな。いつも本物の綺麗な王子様とご一緒しているからね。」


「…あの方は別格ですからな。」

叔父が肩をすくめる。

「来年…サラサ嬢は…リンデ国の中央学園に通うのかな?」

「はい、そのつもりですわ!」

「そしたらわかるよ。私くらいの見かけなんて珍しくない事がね。

…でも、まあ、ありがとう。」

兄は照れながら微笑んだ。


そしてサラサさんはますます赤くなるのだった。


いつか見た光景が重なる。


レオナルド様が姉を見て恋に落ちた時のことを。


兄には婚約者はいない。

「ずっとレオナルド様のお世話で気が抜けませんでした。」

学園で誰か良い人はいなかったのか、と父に聞かれた時の兄の言葉だ。


「それに、私に近づいてきたのはレオナルド様の目に止まりたいからだ、って事が多かったですから。」

肩をすくめていた兄。


だから無理な縁では無いのだけれど。

六歳も歳の差があるけれど貴族ならありがちだ。


 ……実はわかっている。

あのネロリは沢山の男性たちに人気があったけれど。

兄も実は彼女を気に入っていたひとりだ。


同性の私だって心を許していたのだもの。

男性の兄ならば。


だから今回の事で兄は自分を責めていた。

「あんな毒蛇を。まんまと入り込ませてしまった。」

と。


「…ところで、アルヴァさんの新しい名前はどうしようかしら?」

えっ?

「マルゥ叔母さま?」


「あら?違うの?」

叔母は紅茶を飲みながら言った。


「あの国とは縁を切るのでしょ?…だから私の縁者の養女になって…名前を変えると聞いていたのだけれど。」


「こら、まだ義兄上に打診したばかりなんだ!」

叔父が慌てている。

「あらら。そうなの。」


「お父様……??」

「アルヴァ。あの馬鹿王子は…いろいろ足りない。

今は恋に浮かれているだろうが、そのうち現実を見るだろうよ。

…だからオマエを第二妃にするといいかねん。」


「そんな!」


絶対にお断りだ。


「ね。ここの国の国民になっていれば。おいそれと手を出せなくってよ。」


マルゥ叔母様はにっこりと微笑んだ。


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