二人の王子。
結局、三月には私と第二王子ラディル様との婚約は結ばれた。
書面で通達された。顔合わせも無しに。
王に逆らう事など出来やしないのだと。
父は怒り母は嘆いた。
兄と姉も難しい顔をしている。
胸に鉛を詰め込まれたようだ。
50代?の私は仕方ないことだと諦めているが、七歳の私は自分の将来を悲観してぐずぐずと泣き暮らす日々だった。
三月の半ばのある日。ユキヤナギが咲き誇る庭。
足音で振り返る。
「やあ、又従姉妹殿。アルヴァロッテ嬢だよね?ご機嫌よう。」
まさか?このお姿は。
「第一王子様?」
庭に出て散歩をしていた私の前に、淡い金髪で青い目の少年が現れた。
お供を引き連れて。
「私のことがわかるのかい、初対面だよね。」
「はい。ウチに絵姿が…ございますから。」
緊張で足が震えた。
この第一王子様は美貌の王子様として有名だ。
王の妃は…正妃は政略で選びようがなくても…第二妃や側妃には美人が選ばれるから、
(そしてその息子が王位を継ぐ事もあったから)
王家には美形が生まれることが多いというわけだ。
特に第一王子様レオナルド様は。
もし女性だったら女神の再来ではないか?と言われているお方だ。
確かにその通りだ。こんな美しい少年は見た事がない。
確か…兄と同じ11歳であられたか。
「キミはかしこいんだね。ではなんで私がここに来たのかわかるかな。」
「兄は王子様の側近候補と聞いてます。時々ご一緒にお勉強をしているとか…会いに来られたのですか?」
一生懸命に考えながら答える。冷や汗をかきながら。
「まあ、そうだね。そう言う事になってはいるが、ホントはね。
弟とキミを合わせて?親しみを持たせようと、父上がおっしゃるんだ。
…ほら、恥ずかしがらずに出て来い。」
レオナルド様が声をかけると、護衛達の間から、茶色の髪と目をした男の子がおずおずと出てきた。
「ラディル。アルヴァロッテ嬢にご挨拶しなさい。」
「よ、宜しく。」
この子がラディル様か。子リスや子犬みたいにおどおどとしている。
うちにある絵姿ではもっとお小さい頃のお姿で…もっとレオナルド様に似せて描かれていた。
「こちらこそ…お願いしますわ。」
なんだろう。
私の中の中年女性が、なんて可愛いの、いじらしいの。と言っている。
前世での姉の子供や小さい頃飼っていた犬を思いだした。
丸くて茶色でボタンみたいな目がじっとこっちを見てくる。
緊張で潤んでいるじゃないの。大丈夫よ、よしよしと言いたい。
「二人とも同じ歳だよ。学園でも同級生になるね。」
そして目を細めるレオナルド様。
「お似合いじゃないか?」
「ラディル様。公爵に挨拶もなさらず、勝手に庭園にはいるのはいかがなものか、と。」
護衛の中の1人が渋面をつくる。
「ああ、ごめん。門のところから、綺麗な花が見えたものだからね。
しかし、利発そうなお嬢さんだ。私は気にいったよ。」
「ありがとう…ございます。」
将来の王だ。失礼があってはならない。
頭を下げる。
その時だ。
「アルヴァ?どこにいるの?お母さまが心配なさってるわ…」
庭の咲き誇るユキヤナギの花の影からお姉様がこちらにやってきた。
「あら、お客様…」
光に透けるプラチナブロンド。
その瞳は宝石のように輝いている。
白い舞い散る花びらと共に。
雪の妖精か春の使徒か。
なかなか父が外に出さない、人目に触れさせない掌中の珠。
「シルヴァンお姉様。」
ごくり。
隣の王子様から息を飲む音が聞こえた。
「そなたが…シルヴァンか。我が又従姉妹の姫…」
美貌の王子様は目と口を見開き、その頬は赤くなっていた。
私にはわかった。
この日レオナルド様は恋に落ちたのだと。




