私は安心して暮らしたいのです。
「アルヴァ貴女、今なんて言ったの?」
母の目が見開いていた。
髪は乱れ、肌はぼろぼろだ。ろくに眠っていないのだろうな。
「お母さん?ずっとついていてくれたの?ありがとう。」
「そう、だけど。」
「お父さん…お父様はどこに?」
「アルヴァ、気がついたか。良かった…」
父の顔にも疲れがある。
「お父様、お母様。聞いてください。私には前世の記憶があります。
…ここを、」
腹部を刺す。
「刃物で切られて絶命しました。」
「 ! なんてこと!」
母は顔を手で覆い、父は渋面で頷く。
「信じてくれるんですか。」
「ああ、何しろ…オマエはヒトが変わったようだ。言葉使いだって七歳児のものではない。」
「…亡くなった歳は四十代から五十代だったと思います。」
「そんな。」
「時々そう言う前世の記憶を持つものがいたとは聞いている。」
「ええ、私の曽祖父がそうだったと。」
「そうなんですか。」
その人が異世界転生かどうかはわからないが、そんなヒトがいたのは確かなのか。
「私はもう、理不尽な死を迎えるのは嫌です。」
視界が歪む。温かいものが頬を伝う。
「王子様との婚約はお断りを。」
「わかっている。」
父は顔を歪ませた。
…ああ、そうか。この国は中世と一緒。絶対君主制だ。
我が家はそれでも王に意見が言える方だけども、きっとそれでも難しいのだろう。
「…では、私は身を守る術を学びたいです。」
手をぎゅっと握りしめる。
「アルヴァ。」
「護身術では収まらない。暗殺者を返り討ちに出来るようなものを。」
「…わかった。」
父は頷き、母は目を見張った。
「それから。」
両親を見据える。
「…決して私を裏切らない護衛が欲しいです。」
その日のうちに、私と同じく年頃の二人の子供が私の前に連れて来られた。
「代々うちの護りをしてくれている家系の子だ。
…ウチに王家の血が混じっているのは知っているな?」
「はい。」
「何代か前の王子様がウチに婿入りされたとき、生まれた時から守っていた影が、彼を慕ってついてきた。
そして、ウチの侍女と所帯を持ったのだと。」
「それから代々お護りしております。」
すっ、と影のように背の高い男性が子供達の後ろに立った。
「わが甥と姪がお嬢様を御守りするでしょう。」
「…そんな人がいるとは知らなかった…」
「……後継ぎの男子だけなんだ、本来護られるのは。」
「お兄さまの……護衛。でもいいのかしら、その子達を私につけて。」
「大丈夫だ、それは別にいる。」
「はい。少し複雑でしてな。私には兄弟が三人おります。」
「そう、それで私や現王が王子様のとき、護りが厚くて良かったのだ。」
それで王様はウチで暗殺を免れたのね。
「恐れ入ります。この子達の親は私の弟でした。旦那様の護衛についておりましたが、5年前にこの家に忍び込んだ賊と争って命を落としました。」
「…えっ。」
「それで、弟の妻はこのお屋敷の下女でしたけれど、とても怯えてしまって。自分の子供達も将来危険な任務につかされると。
それでまだ、五歳だった二人の子供を連れてお屋敷を出たのです。」
「…私も気にはなっていたんだ。」
父がため息を落とす。
「その後悪い男に引っかかったらしく、子供達はあまり良くない待遇で育ったらしいのです。」
確かにこの二人は痩せている。そしてアザがあるようだ。
今の話では10歳の筈なのだが、私と同じくらい…七歳くらいにしか見えない。そして双子なのか?良く似ている。
「そして先日、手紙を持たされて私を訪ねて来ました。
『この子たちをお願いします。』と。母親はこの国を出たみたいなのです。…また別の男と。
流石に残して置いたらどんな目に合うかわからなかったから私を頼ったのでしょう。
それくらいならもっと早く…!」
…捨てられたのか。なんて事だ。
「護衛の仕事をするのならウチに置いてやると、約束したんだ。」
父の言葉に、
「…おじさんと、このお屋敷のことはうっすらと覚えていました。
お父さんがいた頃はいつもご飯が食べられて…温かい部屋で寝られた事を。」
「私、お嬢様の事を覚えています。とことこと歩いて、可愛くって。私の顔をみたらにっこりと笑っていたのです。
お顔を見るのが楽しみでした。」
兄がロン、妹がマウラと名乗った。
「食べさせてもらって、住まわせていただいて、…真っ当な仕事が頂ける。とてもありがたい事です。
もう、泥水をすすったり、逃げ回る暮らしは嫌なのです。」
「苦労したのね、貴方達。小さい子になんてひどいことをするのかしら。許せないわ!」
思わず立ち上がって二人の手を取る。
「お嬢様だって、小さい子じゃないですか。」
泣き笑いをするロン。
「私達のために泣いてくださるのですか?」
マウラが目を見開く。
本当だ。いつの間にか泣いていたらしい。
私の中の前世日本人が許せないと。
「お嬢様、私達を受け入れてくださった。この御恩は忘れません。」
それから彼等は私と共にいる。
「お嬢様、早く南国へ参りましょう。」
「ええ、女神伝説に振りまわされる奴らに付き合うことはありません!」
心強い護衛として。




