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女神の祝福なんて知らない。  作者: 雷鳥文庫


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3/12

善意の仮面をつけた提案は要らない。

 帰りの馬車の中で父は言った。

「アルヴァ、すぐに南国へ行け。」

「南国ですか?」

「ああ。」


「あちらのフリッツ公爵家は、今母さんの弟が…ファイバル君が継いでいるだろう?彼はさっぱりとして良い人柄だ。」


父は家族だけの時は、三年前に亡くなった母を「母さん」と呼ぶ。母は南国のフリッツ公爵家から嫁いできた。

リーデ国の中央学園で二人は出会い恋に落ちたのだと。


まわりの国から貴族の子女は中央の学園にやってくる。

それは貴族としてのステータスであり、他国との相互理解の場所でもある。

それぞれの国は隔てられているから、学園で初めて他所の国の人間と知り合って惹かれ、結婚する貴族は多いのだ。


「ええ、私もファイバル叔父様が好きですわ。」

「それに。」

と父は続けた。


「あの国は女神信仰が強くない。」

「ええ。」

「シルヴァンのこともあるしな。」

「…。」

父の顔が歪む。顔を覆う。

「どうして…北の国なんかに…嫁がせてしまったのか…」

その声は震えていた。


「あの国を許せない。女神信仰なんてクソ喰らえだ。」



 私には兄と姉がいる。いや、姉はいた、と言った方が正しい。


私の三つ上の姉、シルヴァン。


彼女はとても美しい人だった。



…今の王家には姫がいない。


1番王家の血筋に近い姫。それは私と姉だった。

もちろん国家の王族貴族間で結婚をくり返すから、他所の国からでも女神の化身の乙女が現れたこともある。


だけど姉、シルヴァンは。

白(・)っ(・)ぽ(・)い(・)金(・)髪(・)は(・)光(・)に(・)輝(・)き(・)、その瞳は淡い青で、角度によっては青紫色っぽく見えるのだった。



「シルヴァン様は伝説の女神の化身になるのではないか。」

「何という透明な美しさだ。」

みんなはそう噂した。


そして。

「アルヴァ様は黒い髪だし、地味な顔立ちだ。」

と続くのだ。


 姉はそんな事を言われるたびに怒っていた。

「見かけで私達を見ないで。私はアルヴァの黒くて豊かな髪が好きよ。」

私を抱きしめる姉の手は怒りで震えていた。

「そうよ、アルヴァはこんなに可愛いじゃないの!あの人たちは女神に似てるかどうかで人生を決めるつもりなの!?」

母も怒っていた。私そっくりの黒い巻き毛を揺らして。



私は。

自分が女神の化身になるのだとは思わない。

美しく優しいこの姉こそがふさわしい。

だってもうほら、縁談だって降るようにある。まだ子供なのに。

父は学園に通うまでは姉の縁談を決めない、と跳ね除けている。


ならば。

少しでも勉強をし、身体を鍛え、ひとりで生きていける人間になろう。

縁が無ければ領地を支える手伝いをしよう。

それに、子供達を教える教師もいいのではないか?



そう思ったきっかけがある。



私が7歳の時、私達の祖母が他界した。

馬車の事故だった。


「何て事だ!!ああ、ローズ叔母様っ!」

その時、王が弔問に訪れて泣き崩れた。


…昔、第三王子だった王がウチで育てられたのは前述の通りだ。

「…本当に母の様に慕って下さっていたのですな。」

父がポツンと言った。


「もちろんだ、従兄弟殿。あんなに実子と分け隔てなく可愛がっていただいたのに!!

私の母はもう亡くなったし、ずっと母の様なものだ!」

実際、王から祖母の誕生日には彼女が好きな果物が届いていた。


「…母と前王妃の伯母上は良く似ていましたから。顔は。」


いくらお忍びとは言え、泣き崩れる王の姿にみんな困惑していた。


私達には優しい祖母だったが、父達には厳しかったと言う。

甘やかすことなく、教育を受けさせた。

(前王妃様は手元に残った二人の王子は甘やかし放題だったとか。)

それで、第三王子だったけれど、ちゃんと帝王学も語学も学ばせられていたので、王座につくことになっても困ったことは無かったらしい。




 祖母の葬儀が終わって十日後。冷たい雨が降っていた二月の初旬。


王が憔悴しきった顔で我が家を訪れた。


「…昨日、叔母上が夢枕に立たれた。」

「母が?」

父が胡散臭いものを見る目で王を見る。


「…上の姫、シルヴァンは引く手あまたであろうが、下のアルヴァの行く末が心配である、と。」


「何をおっしゃる。」

父と母の目には怒りの炎がある。


「だから、うちの第二王子の婚約者にどうか?とおっしゃってな。」


「 ! 何ですって?」


「アルヴァにはまだ婚約者がいないのだろう?」


王はまったく悪気のない顔で言った。


彼が取り込みたかったのは愛する祖母の面影か。それとも女神の血筋なのか。




…王家にはここ三代も姫が生まれていない。


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