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転生したら奴隷にされたのでリーマンショック起こして異世界経済崩壊させます  作者:


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9/11

第9話 再契約

再契約書は、古い作業机の上に並べられた。


白い紙ではない。

何度も削られ、書き足され、端が汚れた紙だ。


だが、そこに新しい欄が作られた。


新しい紙では、返済額と返す日、作業内容を先に決める。家族を取る約束や罰則条件は、そこで外していく。


帳簿係は不満そうだった。


「こんな細かく分けていては、手間が増えます」


「回収不能よりは安い」


レイジが言うと、帳簿係は口を閉じた。


最初はノアだった。


ノアは机の前に立ち、何度も自分の首輪に触れそうになってやめた。


「読めるか」


「少しだけ」


レイジは紙を指した。


「薬代20万ルク。これは残る」


ノアは頷いた。


「うん」


「鉱山送りは停止。返済は1日100ルク。仕事は水運び、薪拾い、掃除。馬小屋は週に2日まで」


「ミナは?」


「返せなかった時のために入れない」


ノアは顔を上げた。


「ほんと?」


「ここに書く」


レイジは一行を指した。


返せない時でも家族を取らない。


リーゼが横から読み上げた。


「ミナは入れない。借金の代わりに働かせない。鉱山にも送らない。ノアが倒れても、妹に払わせない」


借金をしている者の家族を、代わりに連れていかない。

その一文が、紙の上に残った。


ノアはしばらく意味を噛んでいた。


それから、ゆっくり息を吐いた。


長く止めていた息だった。


「ぼくが嘘ついたら?」


「返済を隠した時だけ罰則。仕事が遅い、疲れた、病気になった、それだけでは罰しない」


「それでいいの?」


「倒れたら返せない」


ノアは紙を見た。


署名欄に、汚れた指を置く。


文字は震えていた。

それでも、自分で名前を書いた。


ノア。


小さな名前だった。


だが、鉱山送りの赤印よりは強かった。


次はマルタだった。


「私の歳で、再契約なんてね」


マルタは椅子に座る時、腰に手を当てた。


「葬儀費15万ルク。厨房仕事のみ。重い水桶、薪割り、夜間作業は外す」


「ずいぶん楽をさせてくれる」


「倒れた日の罰則を消すためだ」


「罰を消せるのかい」


帳簿係が嫌そうに答えた。


「猶予です。消すわけではありません」


「条件達成中は発動しない」


レイジは紙を押さえた。


「返済は1日200ルク。厨房の残飯処理、鍋洗い、下ごしらえ。作業記録をつける」


マルタは眉を寄せた。


「鍋を洗えば、息子の葬儀代を返したことになるのかい」


「なるように書く」


マルタは笑わなかった。


「紙に書けば、そうなるのかい」


「この屋敷ではな」


しばらくして、マルタは指で署名欄をなぞった。


「名前を書いたら終わりだと思ってたよ」


「終わる契約もある」


レイジは言った。


「でも、これは返すための契約だ」


マルタは小さく息を吐いた。


「なら、もう一度だけ書くかね」


彼女の字は、かすれていた。

だが、最後まで崩れなかった。


次は病人だった。


畑仕事で足を痛めた男。

発熱して倒れた女。

逃亡しかけて捕まり、罰で片腕が動きにくくなった青年。


レイジは一人ずつ、帳簿と身体を見比べた。


「畑は無理だ。縄作り」


「3日に一度の返済でいい」


「妻子は取らない。代わりに作業場へ来た日を記録する」


「逃げた罰は残る。だが、戻って働くなら追加罰は止める」


全員が救われたわけではない。借金は残り、首輪も残り、自由にもならない。


それでも、赤い欄が少しずつ変わった。


赤字で終わっていた欄の横に、新しい黒字が入る。


少額返済、作業復帰、返す日の更新、鉱山送りの停止。


それが帳簿に加わった。


黒い文字は地味だった。


だが、赤い印よりも、明日の返済につながっていた。


3日目、最初の返済が入った。


ノア、100ルク。

マルタ、200ルク。

縄作りの男、50ルク。

厨房補助、120ルク。


小さな数字だった。


バルガスの仕事部屋にその帳簿を持っていくと、男爵はしばらく黙っていた。


「少ないね」


「昨日まではゼロです」


バルガスは紙をめくる。


「罰則を止めた者から、金が戻っている」


声に苛立ちが混じった。


認めたくない。

だが、数字はそこにある。


「偶然だ」


「では、明日も偶然を増やします」


バルガスはレイジを見た。


首輪越しに、冷たい視線が刺さる。


「君は、自分が善人だと思っているのか」


「いいえ」


レイジは答えた。


「死体からは取れないと言っているだけです」


バルガスの指が、帳簿の上で止まった。


7日目。


ノアの返済欄に、七本の細い線が並んだ。

1日100ルク。

合計700ルク。


20万ルクから見れば、傷にもならない。


だが、鉱山候補の赤印には黒い横線が引かれていた。


停止。


その二文字を、ノアは何度も見ていた。


「字、合ってる?」


「合ってる」


レイジが答えると、ノアは木片に同じ字を書こうとして、途中で諦めた。


「ミナには、鉱山じゃなくて、仕事って書く」


「そうしろ」


13日目。


マルタの厨房返済は、2600ルクになった。


重い水桶を外しただけで、彼女は一度も倒れなかった。

鍋は洗われ、残り物は分けられ、厨房の作業は止まらなかった。


監督役が水桶を指した日、マルタは再契約書の控えを見せた。


監督役は舌打ちしただけで、手を出さなかった。


紙が、初めてマルタを殴らなかった。


21日目。


逃亡しかけた青年が、作業場に戻った。


片腕はまだうまく上がらない。

それでも、縄を撚ることはできた。


返済額は1日50ルク。


帳簿係は鼻で笑った。


「雀の涙です」


「逃げたままならゼロだ」


レイジが言うと、帳簿係は返事をしなかった。


その夜、帳簿部屋の赤字は少し減った。


消えたわけではない。

黒字が横に並んだだけだ。


だが、並んだ。


赤字だけで終わっていた欄に、返す日と働く場所が足されていく。


鉱山送りの停止、追加罰の停止、小さな返済額。


同じ紙に、別の未来が書き足されていた。


ノアは水桶を運ばずに済んだ夜、小さな木片に何かを書いていた。


「何してる」


「ミナに」


ノアは隠そうとして、やめた。


「まだ鉱山に行かないって、書く」


字は下手だった。

文章にもなっていない。


それでも、ミナという名前だけは何度も書かれていた。


厨房では、マルタが鍋を洗っていた。


湯気の向こうで、彼女がぼそりと言った。


「変な日だね」


「何が」


「紙を見て、少し息が楽になる日が来るとは思わなかった」


レイジは返事をしなかった。


首輪はまだ重い。


だが、帳簿の黒字は増えていた。


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