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転生したら奴隷にされたのでリーマンショック起こして異世界経済崩壊させます  作者:


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7/12

第7話 死体ではなくルクを回収する

翌朝、鉱山商の馬車は中庭に入ってきた。


荷馬車ではない。

檻だった。


木枠に鉄板を打ちつけ、窓の代わりに細い隙間がある。中から、古い血と汗の匂いが漏れていた。


ノアはその前に立たされていた。


マルタは厨房口のそばで、監督役に腕を掴まれている。

顔色が悪い。


レイジの首輪には、短い鎖がつけられていた。

逃げる気がなくても、逃げる者として扱われる。


バルガスは中庭に出てきた。


今日も整っていた。

服に皺はない。靴も磨かれている。


「契約を守れなかった者の処理を始めよう」


処理。


ノアの指が服の裾を握った。


レイジは一歩前に出た。


すぐに首輪が締まる。


「……提案があります」


喉の奥が焼ける。

それでも、言葉は出た。


バルガスが目だけを向けた。


「許可した覚えはないが」


「金の話です」


締めつけが、わずかに緩んだ。


バルガスは契約を信じている。

そして金を信じている。


この順番は、間違えない方がいい。


「鉱山へ送れば、管理費は減る。ですが、回収額は増えていない」


帳簿係が眉をひそめた。


バルガスは手を上げ、止めた。


「続けなさい」


レイジは机も紙もない中庭で、昨日見た数字を思い出す。


「去年の鉱山送り、12人。全額回収、ゼロ。死亡、3。病気で作業不能、4。逃亡、2。まともに戻ったルクは、ほとんどない」


帳簿係の顔が変わった。


合っている。

それだけで十分だった。


「死体は返済しません」


ノアが顔を上げた。


「逃げた奴隷も返済しません。病人も返済しません。罰は発動している。首輪も効いている。ですが、ルクは戻っていない」


バルガスは黙っていた。


怒ってはいない。

計算している顔だった。


「では、君はどうする」


「返せる形にします」


「契約を守れなかった者を甘やかすと?」


「違います」


レイジは首輪の痛みを飲み込んだ。


「金を取るために、壊さないだけです」


中庭が静かになった。


鉱山商が鼻で笑いかけ、バルガスの顔を見てやめた。


レイジはノアを見ないようにした。

見れば、言葉が熱くなる。


熱くなれば負ける。


「俺とノアとマルタを使ってください」


「君を?」


「30日。未回収金の一部を改善します。帳簿上の回収不能を、少額返済に変える」


「できなければ?」


「俺は鉱山へ行く」


ノアが息を呑んだ。


マルタが低く言った。


「馬鹿だね」


レイジは続けた。


「ノアとマルタの鉱山送り、罰則は30日止める。代わりに、二人を調査と再契約に使う」


バルガスは少し笑った。


「君は自分の命で、他人の罰を止めようとしているのか」


「いいえ」


レイジは首輪に触れなかった。


「俺の作業に必要な道具を壊されると困るだけです」


ノアの顔が歪んだ。


泣いてはいない。

泣く余裕もない顔だった。


バルガスは帳簿係を呼んだ。


「条件を紙にしなさい」


「男爵さま」


帳簿係が小さく言った。


「よろしいのですか。この奴隷は危険です」


「危険だから、紙にする」


バルガスは即座に答えた。


「契約外の行動を許すわけではない。契約の中で使う」


紙と板が運ばれてきた。


契約官はいない。

だが、男爵家の管理契約としては足りるらしい。


帳簿係が書く。


30日。

回収不能の紙から、少しでもルクを戻す。

対象、男爵家管理下の小口債務者。

一件ずつは小さいが、数だけは多い借金を抱えた者たち。

ノア、マルタへの鉱山送りおよび罰則を30日止める。

達成できない場合、レイジを鉱山送り。


レイジはそこで口を開いた。


「改善の数え方も書いてください」


バルガスの目が細くなる。


「何を数えるつもりだね」


レイジは、帳簿係の筆先を見た。


「戻った銀貨は、そのまま一つ目の欄へ。鉱山商へ払うはずだった馬車代は、赤線を引いて二つ目の欄へ。罰で倒れるはずだった者が働いた分は、三つ目の欄へ」


帳簿係が嫌な顔をした。


「金が入ったわけではありません。ただ払わなかっただけの行です」


「払わずに済んだなら、失わなかったルクです」


ノアが小さく帳簿を覗いた。


馬車代に、鉱山へ送る費用、監督費まで足される。送るだけで、また金がかかる。


その三つの欄に、レイジは指で線を引く真似をした。


「鉱山へ送らなければ、この三つは増えない」


マルタが低く言った。


「罰で倒れなければ、鍋も止まらないね」


「そういうことです」


「そんなものは、計算が面倒です」


帳簿係が言った。


帳簿係はバルガスを見た。

助けを求める顔ではない。

逆だった。

この数字を読み上げれば、男爵に不利になる。

だが、帳簿にある数字を消すことはできない。


「死亡通知よりは簡単です」


首輪が熱くなった。


レイジは黙った。


バルガスはしばらくレイジを見ていた。


「いいだろう。実際に戻ったルク。払わずに済んだルク。働き続けた分のルク。帳簿係が確認できるものに限る」


「もう一つ」


「まだあるのかね」


「戻ったルク、払わずに済んだルク、外から出た買い戻し金が、俺の残債60万ルクに届いた場合、首輪を外す。届かない場合でも、回収不能の小口契約、あの棚の紙束に値段をつけて、残債に充てられるようにする」


帳簿係が奥の棚から、薄い紙束を出した。


靴職人の道具代、洗濯女の家賃、荷運び人の治療費、小作人の種代。小さな借金ほど、仕事と生活に直接つながっていた。


一枚ずつは小さい。

だが、返してもらう権利だけは、まだ紙に残っている。


男爵家では、そういう紙を小口契約と呼んでいた。

大きな石一つではない。小石が袋いっぱいに詰まっているような借金だった。


「この紙にも、値段をつけてください」


帳簿係が声を上げかけた。


バルガスが止めた。


「焦げついた紙を、君の身代金に混ぜると?」


返ってこないまま、帳簿に残っている契約書。

男爵家の者たちは、それを焦げつきと呼んでいた。


「男爵家では価値がない。なら、損にはならないはずです」


バルガスは笑った。


今度の笑みには、少しだけ棘があった。


「君は、ゴミまで欲しがるのか」


「捨てるなら、ください」


「今の値段はこちらが決める。焦げついた紙で60万に届くと思うなら、試してみるといい」


「構いません」


高くつけられても困る。


欲しいのは金額ではない。

紙そのものだ。


レイジがやることは、難しくない。


返せる者から少しずつ返させる。鉱山送りや罰で余計にかかる金を止め、倒れずに働ける仕事へ戻す。

それでも足りない分は、男爵家が捨てた契約書を借金の代わりに受け取る。


バルガスが軽く見ているものだけで、バルガスの契約を埋める。


バルガスは、すぐには頷かなかった。


「なるほど。面白い。だが、次に同じ手を使うなら、私はその前に契約を変える」


「次の契約は、次に読みます」


バルガスの笑みが薄くなった。


契約書が整えられる。


戻ったルクだけではない。払わずに済んだルク、倒れずに働いた分のルク、買い戻し金。その全部を合わせて、小さな契約書の束に値段がついた。


一枚ずつの数字を足して、レイジの残債に充てることができる。


達成できなければ鉱山。

達成できれば、首輪解除。


ノアとマルタの鉱山送り停止。


バルガスの署名。

帳簿係の確認印。


最後に、レイジの署名欄があった。


レイジは紙を見た。


自分の名前を書く欄がある。

だが、そこにはまだ奴隷としての名しかない。


レイジ。


久我怜司ではない。

この世界で、首輪を嵌められた名前。


手が動く。


署名の途中で、首輪が熱くなった。

逆らっているわけではない。

それでも、首輪はレイジが何かを変えようとしていることを知っているようだった。


バルガスも署名した。


朱印が押される。


乾いた音がした。


ノアの鉱山送りは、紙一枚で止まった。

マルタの罰則も、紙一枚で止まった。


紙で落とされた人間が、紙一枚で、今日だけ鉱山に行かずに済んだ。


馬車の扉が閉められた。


鉱山商は不満そうだったが、男爵には逆らわなかった。


バルガスはレイジの前に立った。


「期待しているよ」


声は優しかった。


「君が、死体ではなくルクを回収できるならね」


レイジは頭を下げた。


首輪が軽く鳴る。


まだ外れていない。


だが、鉱山へ送られる日は、30日だけ遠ざかった。


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