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転生したら奴隷にされたのでリーマンショック起こして異世界経済崩壊させます  作者:


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第53話 残った名前と印

 最初の一枚は、財務卿の前に置かれた。


 王国支援証書発行記録。


 王国印。

 財務卿の署名。

 発行口数。

 返礼予定日。


 財務卿は、紙を見下ろした。


「これは、正当な王国の資金調達だ」


「そうだな」


 レイジはうなずいた。


「だから、王国は被害者ではなく、発行した側だ」


 会議室が静かになった。


 財務卿はすぐに言った。


「発行と市場の混乱は別だ。証書は王国の支払いを支えるためのものだった」


「では、次です」


 レイジは別の紙を置いた。


 王国支援証書の販売窓口一覧。


 グラント商会。

 聖白教会支部。

 王都広場の臨時販売台。

 白鷲銀行の紹介窓口。


「販売窓口の承認記録です。ここにも財務府の印があります」


 財務卿の目が紙を追う。


「販売を認めたのは王国。王家の印を押したのも王国。返礼日を決めたのも王国」


 レイジは紙を少しずらした。


「途中で支払いを延ばした記録もあります」


 支払い延期記録。


 兵士の給料。

 武器職人への未払い。

 食材商への支払い遅れ。

 王国支援証書の返礼延期。


 そこにも、財務卿の確認印があった。


「支払えないと知っていた」


 財務卿の口元が固くなる。


「国庫には事情があった」


「小口契約者にも事情はありましたよ」


 レイジは次に、教会の紙を置いた。


 聖白教会寄付金運用記録。


 司祭の顔が引きつる。


「それは内部資料だ」


「破産者オークションで出た清算記録です。もう隠れていない」


 紙には、寄付金の移動先が書かれている。


 炊き出し予算。

 一部停止。

 王国支援証書購入へ振替。


「炊き出しの鍋を減らして、証書を買っていますね」


「信徒の財産を守るためです」


「鍋を空にして?」


 司祭は口を閉じた。


 レイジはもう一枚出す。


 木箱商品購入記録。


 箱番号七。

 箱番号十二。

 箱番号十九。


 購入者欄には、聖白教会投資部門の名がある。


「教会は木箱商品も買っている。その購入記録は、販売会場で安心材料として使われた」


 グラント商会の販売台帳が置かれる。


 そこには、説明文言が残っていた。


 聖白教会も購入済み。

 王立鑑定院金印確認済み。

 複数契約による返礼見込みあり。


 教会司祭の喉が鳴った。


「我々が、販売したわけではない」


「買った記録を、販売文句に使われることは知っていましたか」


「知らない」


「では、これを」


 レイジは小さな控えを出した。


 教会が買った記録を、販売会場で見せていいという許可書。


 署名欄に、教会会計役の名。

 横に、聖白教会の印。


 司祭の顔から色が落ちた。


 会議室の端で、誰かが息を飲む。


 次は、王立鑑定院だった。


 レイジは金印台帳を開いた。


 箱番号。

 確認日。

 確認者名。

 印の種類。

 形式確認。

 損失保証なし。


「王立鑑定院は、損失を保証していない。そこは正しい」


 院長代理が少しだけ顔を上げる。


「その通りです。我々は形式を確認しただけで」


「ただし、金印が販売文句に使われることは知っていましたか」


 院長代理の口が止まる。


 レイジは販売会場の説明記録を出した。


 王立鑑定院金印確認済み。

 形式上の確認を受けた安全な箱。

 貴族向け長期返礼商品。


「形式確認だけだったなら、なぜ販売会場でこの言葉を止めなかった」


「我々は、全ての販売現場を監督できる立場では」


「では、これは?」


 レイジは、鑑定院からグラント商会への金印を販売資料に載せていいという許可の控えを置いた。


 使用目的欄。

 貴族に売る時に見せる説明書。


 王立鑑定院の小印。


 院長代理の頬が震えた。


「形式確認だけです、と大きく書かなかったのは誰ですか」


 答えはなかった。


 レイジは次に、グラント商会の販売台帳を机に置いた。


 紙束の厚みが違う。


 箱番号。

 購入者名。

 説明文言。

 確認印。

 販売担当者。

 紹介記録。


 カシアンの確認印もあった。


 会議室の視線が、販売記録へ集まる。


「カシアン・グラントは、もう清算済みです」


 レイジは言った。


「倉庫、支店、看板、商売を続ける権利。競売台に並びました。ここでさらに売るものはない」


 グラント商会の元役員は、青い顔のまま動かない。


「だが、記録は残る」


 販売台帳が開かれる。


 箱番号十二。

 購入者、某伯爵家。

 説明文言、教会購入済み、金印確認済み、返礼見込み安定。

 確認印、カシアン・グラント。


「読んだ上で売った記録です」


 元役員が小さく首を振る。


「説明書には危険が――」


 レイジは、破産者オークションの清算記録を置いた。


 グラント商会倉庫。

 支店。

 販売窓口。

 商売を続ける権利。

 看板。


 すべて清算済み。


「もう清算は終わった。だが、売った記録は消えない」


 元役員は口を閉じた。


 レイジは白鷲銀行の貸付先一覧を置いた。


 貴族名。

 商会名。

 教会関連団体。

 王国関係支払い。

 魔石鉱山権を担保にした借入。


 白鷲銀行の幹部が顔をしかめる。


「それは銀行の機密だ」


「取り付けの夜に、銀行の一部権利と一緒に買いました」


「だが、全てを公開する権利は」


「ここで公開しなくても、王国が支払えない理由は同じです」


 レイジは、貸付先一覧の一部に指を置いた。


 魔石鉱山権担保契約。

 追加担保通知。

 早期返済要求書。


「魔石鉱山権が落ちたあと、担保が足りなくなった。追加担保を求めた。払えない者が増えた。銀行は支払いを止めた」


 銀行幹部は何も言わなかった。


 最後に、レイジは破産者オークションの清算記録を置いた。


 バルガス領の税を集める権利。

 聖白教会の別邸。

 王立鑑定院の金印管理権。

 グラント商会の倉庫。

 貴族金融街の建物使用権。


「ここまで、もう値段がつきました」


 レイジは言った。


「人ではなく、貴族や商会が持っていた権利に」


 部屋の誰も、すぐには動かない。


 そこで、リーゼが一歩前へ出た。


 彼女は別帳簿を開く。


「こちらは、競売から外したものです」


 財務卿の目が動く。


「住居台帳。食料台帳。仕事場名簿。小口支払い表。再契約窓口の受付記録」


 リーゼは机に並べた。


「東区共同住宅。西市場裏の元職人宿。食材商の小倉庫。元奴隷用の仮住まい。これらは再契約へ回しました」


「清算額を減らしたのか」


 財務卿が言った。


 リーゼは頷いた。


「減らしました。ですが、炊き出しは止めていません。食材商への小口支払いも続いています。住む場所を失った人の列も、増えていません」


 彼女は別の紙を出す。


 今日支払った日雇いや小さな仕事の給金。

 配給札の数。

 仕事場へ移った人数。

 住居再契約の件数。


「貴族街の金は燃えました。でも、鍋と仕事場と住む場所は止めていません」


 財務卿は、リーゼの紙を見た。


 そして、初めて黙った。


 王は、机の上の紙を見下ろしていた。


 王国印。

 金印。

 教会印。

 商会印。

 確認印。

 署名。

 箱番号。

 清算記録。

 別帳簿。


 紙は並んでいるだけだ。


 だが、そのどれもが、逃げ道を塞いでいた。


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