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転生したら奴隷にされたのでリーマンショック起こして異世界経済崩壊させます  作者:


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第52話 財務卿は責任を押しつける

 王城からの使者が来たのは、破産者オークションの清算記録に最後の印が押された直後だった。


 レイジは競売場の奥で、買い取った小口契約の束を確認していた。


 家賃を払えなくなった者。

 葬儀代を借りた者。

 種代を借りた農民。

 仕事道具を失った日雇い。


 紙の端には、それぞれの名前と金額がある。


 だが、今までと違う。


 隣には、返せる額、返せる日、働ける場所、住む場所を書く欄が足されていた。


 ノアが入口から顔を出した。


「レイジさん。王城の人です」


「今度は何を売る気だ」


「売るんじゃなくて、呼び出しです」


 使者は硬い顔をしていた。


 王国財務府の紋章が入った封筒を、両手で差し出す。


 封は赤い。

 王国印が押されていた。


 王城会議への出席命令。


 宛名は、レイジ商会代表、レイジ。

 もう一つ、リーゼ家代表、リーゼ。


 レイジは封筒を裏返した。


「印が好きな国だな」


 リーゼは、机の上の清算記録を閉じた。


「行くのですね」


「呼ばれたからな。行かなければ、逃げたことになる」


「何を持っていきますか」


 レイジは、机の上を見た。


 王国支援証書。

 王国関係資金の支払い延期記録。

 王立鑑定院の金印台帳。

 聖白教会の購入記録。

 グラント商会の販売台帳。

 白鷲銀行の貸付先一覧。

 魔石鉱山権の担保契約。

 破産者オークションの清算記録。


 紙ばかりだった。


 この国では、紙が人を縛る。

 なら、紙で返すだけだ。


「全部だ」


 リーゼはうなずいた。


「別帳簿も持っていきます」


「王城で庶民の粥の話をしても、財務卿は喜ばないぞ」


「喜ばせるためではありません。誰を守ったかを見せるためです」


 レイジは少しだけ笑った。


「悪徳金融屋の横に置くには、ちょうどいい帳簿だ」


 王城の門は、競売場の扉より重かった。


 白い石の壁。

 磨かれた床。

 王家の紋が入った赤い布。


 どれも整っている。


 だが、レイジが持つ紙束の方が重かった。


 王城会議室の扉が開く。


 中には長い机があった。


 奥に王が座っている。

 その隣に財務卿。

 壁際には、残った貴族たち。

 聖白教会の司祭。

 王立鑑定院の院長代理。

 白鷲銀行の幹部。

 いくつかの商会代表。


 カシアンの席はなかった。


 代わりに、グラント商会の販売記録を持った書記が座っている。


 人は清算されても、紙は残る。


 財務卿が先に口を開いた。


「レイジ殿。王都の市場は、大きく乱れた」


 声は落ち着いていた。


 怒鳴らない。

 泣きつかない。

 自分は王国の財布を守る者だという顔をしている。


「珍花。銀貨増やしの会。王国支援証書。白鷲銀行前の騒動。魔石鉱山権。木箱商品。破産者オークション」


 財務卿は机に手を置いた。


「どれにも、あなたの名前が見える」


「俺の名前だけですか」


「少なくとも、火を広げたのはあなたの商会だ」


 貴族の一人がうなずいた。


「その通りだ。われらは被害者だ」


 教会の司祭も、静かに手を組んだ。


「聖白教会は信徒のために動きました。王国支援証書も、木箱商品も、信徒の財を守るためでした」


 鑑定院の院長代理が続けた。


「王立鑑定院の金印は、形が整っていることを示すものです。損失まで保証した覚えはありません」


 白鷲銀行の幹部は汗を拭いた。


「銀行は、預かり金を守ろうとしただけです」


 財務卿は、王の前で一歩進んだ。


「王国支援証書は国を救うためのものだった。戦費、兵士の給金、食材商への支払い、王都維持費。王国が必要とした資金だ。そこへ、悪徳金融屋が仕組みを利用して市場を壊した」


 会議室中の視線が、レイジへ集まる。


 レイジは怒鳴らなかった。

 椅子にも座らなかった。


 ただ、財務卿を見た。


「庶民の家が競売に出た時は、自己責任だった」


 財務卿の眉が動いた。


「何の話だ」


「葬儀代を借りた女が奴隷になった時も、妹の薬代を借りた子供が鉱山送りになりかけた時も、借りた者の責任だった」


 レイジは、持ってきた革袋の口を開けた。


「貴族が損をしたら、国家問題か」


 貴族たちがざわついた。


 財務卿は声を低くした。


「王国全体に関わる問題だからだ」


「そうだな」


 レイジは一枚の紙を取り出した。


 大きな紙ではない。

 だが、厚く、硬い。


 端には王国印。

 下には財務卿の署名。


 王国支援証書の発行記録だった。


 レイジはそれを、王城の長い机の中央に置いた。


 紙の音が、小さく響いた。


「では、まず王国から始めよう」


 財務卿の目が、その署名に止まった。


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