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転生したら奴隷にされたのでリーマンショック起こして異世界経済崩壊させます  作者:


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5/11

第5話 契約は男爵にも効く

翌日、屋敷の外が騒がしくなった。


奴隷部屋の外が騒がしい。

馬車の音。甲高い女の声。兵士の足音。


ノアが扉の隙間から外を見て、息を呑んだ。


「リーゼ様だ」


「誰だ」


「下級貴族のお嬢様。屋敷を取られるって」


廊下の向こうで、若い女の声がした。


「借りたのは1000万ルクです。3000万ルクなど、父は――」


「契約は契約です」


穏やかな声が返った。


バルガス男爵。


「あなたの父親は署名しました。後から増やした分、管理費、遅れた分の追加金、書類を作った費用。すべて契約に基づくものです」


レイジは顔を上げた。


1000万が3000万。


昨日見た帳簿と、同じ増やし方だった。


監督役が扉を開けた。


「新入り。帳簿持ちだ。余計な口を利くな」


首輪が熱を持った。

レイジは黙って立った。


通されたのは、男爵家の契約室だった。

長机の向こうに、灰色の服を着た男が座っている。契約官だろう。机の上には分厚い契約書が置かれていた。


その横に、リーゼが立っていた。


青ざめている。

だが、目だけは伏せていなかった。


彼女は、古びた鍵を握りしめていた。

銀の家紋は磨り減り、鍵の柄には何度も触れられた跡がある。


「屋敷を取る前に、契約文の確認を求めます」


リーゼはそう言った。


声は震えていた。

それでも、言い切った。


バルガスは困ったように笑った。


「もちろんです。契約は誰にでも開かれている。読めばよろしい」


バルガスは、穏やかな顔で続けた。


「私は拾ってあげた者にも、同じことを言っています。野垂れ死ぬより、屋敷の床で働く方がましでしょう」


契約官が紙をめくる。


レイジは帳簿を抱えたまま、リーゼの横を通った。


すれ違う一瞬。


彼女の指が、鍵を握りしめすぎて白くなっているのが見えた。


レイジは声を張れない。

奴隷の発言など、握り潰される。


だから、低く言った。


「借りた額じゃない」


リーゼの目が動いた。


「後から増やせる金の上限を、読ませろ」


それだけだった。


監督役が振り返る。


「奴隷が口を挟むな」


首輪が熱くなる前に、レイジは視線を落とした。


契約官も、レイジを見なかった。

奴隷の言葉は、契約室の言葉にならない。


だが、リーゼは一度だけ息を吸った。


「契約官。私の質問として、後から増やせる金の上限欄を読み上げてください」


バルガスの眉がわずかに動いた。


契約官は紙をめくる。


「第7条。遅延時の加算は、最初に借りた金の5割を上限とする」


部屋が静かになった。


リーゼは、契約書の最初の欄を指した。


「最初に借りた金は、父が最初に借りた1000万ルクです」


契約官は頷いた。


「その通りです」


「なら、後から足してよい分は?」


契約官は数字を追った。


「500万ルク」


「合計は?」


「1500万ルク」


リーゼの声はまだ震えていた。


「3000万ルクには、なりません」


バルガスが口を開いた。


「書類を作った費用、管理費、保全費用が――」


「それらも、上限条項に含まれると書かれています」


契約官が先に言った。


バルガスの指が、机の上で一度だけ止まった。


それまで契約書を飾りのように扱っていた男が、初めて紙を睨んだ。


「……契約官。そこは、別の読み方も」


「ありません」


契約官は短く答えた。


契約書の上には、数字が三つ並んでいた。


1000万ルクの元本に、500万ルクの上乗せが足され、紙の上では1500万ルクに膨らんでいた。


そのどこにも、3000万という数字はなかった。


レイジは帳簿を抱えたまま、黙っていた。


契約は絶対だ。

なら、バルガスも逃げられない。


リーゼが机の縁を掴んだ。


「屋敷を取る話を、取り下げてください」


契約官は朱印を手に取った。


「今の請求された金額は、契約で決めた上限を超えています。屋敷を取ることは認められません」


朱印が押された。


乾いた音だった。


リーゼの手から力が抜けた。

古びた鍵が、かすかに鳴った。


ノアが扉の陰で目を見開いていた。

契約が貴族にも効くことを、初めて見た顔だった。


バルガスはゆっくりとレイジを見た。


ただの奴隷を見る目ではなかった。


契約書を読み、数字の異常に気づき、貴族の借金を減らした奴隷。そんな存在を、誰も普通には見ない。


レイジはまだ首輪をつけている。


だが、バルガスの目にはもう、危険な所有物として映っていた。


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