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転生したら奴隷にされたのでリーマンショック起こして異世界経済崩壊させます  作者:


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第40話 売るカシアン

グラント商会の奥の部屋には、再び客が戻っていた。


鉱山権の暴落で、一度は声が荒れた場所だ。

追加で差し出すものを求める紙。

怒鳴る貴族。

青い顔の書記。


怒鳴り声と青い顔の記憶は、まだ残っていた。


だが、机の上に美しい布の箱が置かれると、人はまた椅子に座った。


カシアン・グラントは、箱番号五の説明書を開いた。


契約件数、四十八。

返礼予定、分割。

返せない時に取るものの記録、添付。

王立鑑定院確認済み。

聖白教会、一部購入済み。


部下が低い声で言った。


「赤札が混じっています」


「混じっている」


カシアンは否定しなかった。


「黄札も多い」


「そうだな」


「危険では」


カシアンは説明書を閉じた。


「鉱山権一つに全額を乗せるよりは、広く分かれている」


「赤札が返らなければ」


「他が返る」


「他も遅れれば」


「返礼は遅れる」


部下は口を閉じた。


カシアンは金印の押された欄を指で叩いた。


「金印がある。教会も買っている。契約は複数に分かれている。鉱山権だけを握って震えている者にとって、これ以上分かりやすい逃げ道はない」


「逃げ道、ですか」


「そうだ」


カシアンは窓の外を見た。


貴族街へ向かう馬車が通っている。

そのうち何台かは、車輪の支払いが遅れているはずだ。

だが、馬車の中の客は、まだそれを顔に出さない。


「彼らは損を取り返したいのではない」


カシアンは言った。


「鉱山権で損をしたと、まだ認めたくない」


それを知っているから、売れる。


カシアン自身も傷を負っている。


鉱山権の保有分。

鉱山権の値下がり。

追加で差し出すものに応じない客。

奥の部屋で逃げたカシアンという噂。


だが、倒れてはいない。


商会は売れるものを売る。

「分けているから危なくない」「教会も買っている」と、客が安心したがる言葉を説明書に入れる。


販売会場で、カシアンは貴族客の前に立った。


相手は、先週まで北灰鉱山権を自慢していた伯爵家の次男だった。

今日は、その話を一度もしない。


「鉱山権は、短い値札に振り回されました」


カシアンは静かに言った。


「こちらは、複数の契約から長く返礼を受ける形です」


貴族は説明書を見た。


「鉱山権の損を、これで埋められると?」


「すぐにではありません」


カシアンは首を振った。


「ですが、今、損を確定させる必要はありません。長く戻る契約収入で、家の穴を少しずつ埋められます」


貴族の目が揺れた。


もっと儲けたい顔ではなかった。


前の損を取り返せるかもしれないと、ほっとした顔だった。


カシアンは言葉を重ねる。


「一つの鉱山だけに頼るより、複数に分けた方が失敗しにくく見えます」


「鑑定院も?」


「書き方と番号を確認しています」


「教会も持っていると聞いた」


「一部を購入されています」


「中に遅れた契約は」


「あります」


カシアンは、そこも隠さなかった。


「だからこそ、複数に分けています。一つが遅れても、他から返礼が入る。説明書にも、その可能性は記載しています」


嘘ではない。


だが、都合のいい順番だった。


貴族は小さな注意書きを見た。

見た上で、金印を見た。

次に、教会購入記録の写しを見た。


最後に、署名欄を見た。


「箱番号五を一口」


書記がすぐに台帳を開いた。


購入者名。

箱番号。

口数。

返礼予定。

説明担当者。

説明文言。

確認印。

教会購入済み記録提示、あり。

王立鑑定院金印確認、あり。


カシアンは確認印を押した。


朱肉が紙に沈む。


また一枚、言葉が残った。


次の客は、老いた子爵だった。


屋敷の維持費が遅れている。

だが、彼はそれを言わない。


「小さく始めたい」


「小口もあります」


カシアンは別の箱を示した。


「箱番号三。青札の契約が比較的多い。ただし返礼は小さい」


「大きく戻るものは」


「箱番号八です」


部下が一瞬だけ顔を上げた。


箱番号八には、赤札が多い。


カシアンは続けた。


「返礼予定は厚い。ただし、遅れる可能性もあります。説明書にあります」


老いた子爵は、説明書を読んだ。


その目は、小さな注意書きの上を通った。

止まったのは、返礼予定額の欄だった。


「鉱山権で失った分には届かないな」


「一度では」


カシアンは言った。


「ですが、家を売らずに済む時間は買えます」


その言葉で、子爵は署名した。


販売台帳にまた文字が増えた。


書記は購入者名の横に箱番号八と書き、口数、説明担当者、説明文言の欄を埋めていく。最後に子爵の確認印を受けると、羽根ペンの先が紙を掻いた。


かり。


購入者名の横に、箱番号八が残る。


最後に、カシアンの印が押される。


とん。


軽い音だった。

だが、その音だけが、奥の部屋に残った。


奥の部屋で、レイジは販売台帳の写しを見ていた。

今ここで一人を止めても、次の客には同じ箱が出される。

止めるなら、誰が、どの箱を、どんな言葉で売ったのかまで残す必要があった。


カシアンは笑わなかった。

勝ち誇りもしなかった。


彼は分かっている。


商会の手元には、返りそうな契約が多い箱を残す。赤札の濃い箱ほど、損を取り返したい者の前へ出す。


それは商売だった。


少なくとも、カシアンはそう思っていた。


夕方、グラント商会の収益表に新しい黒い数字が入った。販売手数料、説明手数料、管理手数料、紹介料。書記が足し合わせた数字だけを見れば、短期的には成功していた。


商会の奥の部屋には客が戻った。

夜会では、グラント商会が新しい堅実な箱を扱っていると囁かれた。

鉱山権で失った名を、別の紙で取り返そうとしている。


白鷲銀行の一室で、レイジは販売台帳の写しを見ていた。


購入者名の横には箱番号があり、さらに説明担当者、説明文言、確認印が続いている。カシアン・グラント確認済み。教会購入記録提示済み。


レイジは、一枚ずつ揃えた。


売った言葉と、見せた記録と、押した印。それらは別々の紙ではなく、同じ首輪の輪になっていた。


首輪は、鉄だけでできているわけではない。


紙でもできる。


外では、美しい布で包まれた箱が、貴族街へ運ばれていった。


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