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転生したら奴隷にされたのでリーマンショック起こして異世界経済崩壊させます  作者:


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第35話 リーゼは小麦を押さえる

王都が魔石鉱山権を見ている間、リーゼは市場の裏を歩いていた。


中央広場では、値札板の前に人が集まっている。

北灰鉱山。

東割鉱山。

南尾坑道。


どの札も、昨日より高い。


だが、リーゼの手元にある記録帳には、別の名前が並んでいた。


資金は無限ではない。

銀貨増やしの会で残した運営手数料。

王国支援証書の販売協力で、リーゼ家に入った手数料。

小口契約から戻り始めた返済分。


全部を買えるほどではない。

だからリーゼは、値上がりするものではなく、止まると困るものだけを押さえることにした。


小麦。

豆。

塩。

固いパン。

薪。

水桶。

倉庫。

荷馬車。

種。


「こちらですか」


ノアが木札の束を抱えて言った。


「ええ。先に倉庫を見ます」


リーゼは答えた。


倉庫通りは、取引所ほど華やかではない。

石壁に囲まれた古い建物が並び、扉には鉄の錠がついている。

空気は乾いた麦と麻袋の匂いがした。


倉庫番の男は、リーゼを見ると不思議そうな顔をした。


「魔石ではなく、倉庫ですか」


「空きはありますか」


「三棟あります。ただ、値上がりはしませんよ」


男は笑った。


「今なら、鉱山権を一口でも買った方がよろしいのでは」


リーゼは記録帳を開いた。


「三棟、三十日。小麦と豆を入れます。支払いは今日」


倉庫番の笑いが止まった。


銀貨袋が置かれると、言葉は変わる。


契約書が出された。

倉庫番号。

使用期間。

保管品目。

搬入日。

搬出優先権。


リーゼが署名する。


ノアが木札に番号を書いた。


一番倉庫。

小麦。


二番倉庫。

豆。


三番倉庫。

塩と固いパン。


字はまだ少し歪んでいる。

だが、読める。


「間違えたら、鍋が変わります」


リーゼが言うと、ノアは真剣に頷いた。


「うん。小麦と豆を逆にしない」


次は種商だった。


王都の外れにある小さな店だ。

棚には麻袋が積まれ、乾いた種が入っている。


店主は、魔石鉱山権の話をしていたらしい。

客の商人と笑っていた。


「魔石を買えば三倍だ。種は撒いてもすぐ金にはならん」


その言葉の途中で、リーゼが入った。


「春撒きの種を押さえたいのですが」


店主は目を瞬いた。


「今、ですか」


「今です」


「まだ高騰していませんよ」


「だから買います」


店主は困ったように笑った。


「リーゼ様も変わっておられる。鉱山権なら夜会で名前が出ますが、種袋では誰も振り向きません」


「振り向かなくて構いません」


リーゼは言った。


「芽が出れば」


店主は返事に詰まった。


そこへ、マルタが入ってきた。


背には小さな籠を背負っている。

中には、豆と塩の見本が入っていた。


「塩は悪くないね。豆は少し古い。安くなるなら、煮込み用に回せる」


マルタは袋の口に指を入れ、匂いを確かめた。


「パンは?」


「明日の分は押さえました」


リーゼが答える。


「明後日は?」


「これから」


「なら、粉屋にも先に行った方がいい。魔石で炉が動いても、粉がなければパンは焼けないよ」


リーゼは頷いた。


マルタは泣かなかった。

怒鳴りもしなかった。

ただ、鍋の中身を見ている。


豆の量。

塩の量。

水を吸わせる時間。

老人と子供に先に渡す分。


それを知っている手だった。


午後には、荷馬車業者の詰所へ行った。


荷馬車の親方は、外で車輪を直していた。

横には、新しい高級馬車の注文書が貼られている。


魔石灯付き。

夜会用。

座席特注。


親方はリーゼの話を聞くと、頭を掻いた。


「小麦袋を運ぶ馬車ですか。今は貴族様の新車注文が多くて」


「先払いします」


リーゼは言った。


「運ぶ先は、倉庫と炊き出し場。遅れた場合の罰も入れてください」


親方の目が少し変わった。


「鉱山権より固い契約だ」


「鉱山権は食べられませんから」


リーゼの声は小さかった。


説教ではない。

確認だった。


その場にいた若い商人が笑った。


「小麦か。倉庫か。荷馬車か。リーゼ家はずいぶん地味になったな」


別の者も言った。


「今は魔石だぞ。倉庫は値上がりしない」


「荷馬車では夜会で自慢できないしな」


笑い声が起きた。


ノアは木札を握りしめた。

マルタは豆袋の紐を締め直した。


リーゼは振り返らなかった。


夕方、レイジが倉庫へ来た。


彼は、取引所から戻ったばかりだった。

外套に少し石粉がついている。


「資金は足りますか」


リーゼが聞いた。


「魔石を買うより安い」


レイジは答えた。


それが答えだった。


リーゼは記録帳を見せた。


倉庫三棟。

小麦袋二百。

豆袋百二十。

塩樽二十。

固いパン、三日分。

荷馬車、六台。

春撒きの種。

配給札、追加五百。


ノアが横から木札を並べる。


一番。

二番。

三番。


マルタは鍋の数を数えていた。


「大鍋は二つ足りないね。買うなら今だよ。皆、魔石に夢中で、鍋はまだ安い」


レイジは小さく笑った。


「鍋も押さえましょう」


中央広場から歓声が聞こえた。


誰かが高値で買ったのだろう。


夕方には、東割鉱山に800万ルクの買い注文が入った。

誰も驚かなかった。


驚かなくなったことが、リーゼには怖かった。


その夜、取引所の値札板には、新しい数字が掛けられた。


北灰鉱山権。

1000万ルク級。


王都の上では、魔灯が増えていた。

青白い光が、新しい屋敷の足場を照らしている。


その下で、リーゼの借りた倉庫には、小麦袋が積まれていった。


袋は光らない。

夜会でも自慢できない。


だが、重かった。


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