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転生したら奴隷にされたのでリーマンショック起こして異世界経済崩壊させます  作者:


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3/11

第3話 葬儀代15万ルク

扉の外で足音がした。


ノアが慌てて椀を隠す。


入ってきたのは、背の曲がった女だった。老婆と呼ぶには、まだ早いのかもしれない。だが顔には、長く眠っていない人間の皺が刻まれていた。


手には木皿がある。


「新入りかい」


女はレイジを見て、残り物のスープを置いた。具はほとんどない。湯に塩を溶かしたようなものだ。


「マルタさん」


ノアが小さく言う。


「余りだよ。ありがたがるほどのもんじゃない」


マルタはそう言ったが、皿はレイジの手の届く場所に置かれていた。


レイジは礼を言おうとして、やめた。

この場所では、軽い礼がかえって傷になる気がした。


「あなたも契約で?」


「そうさ」


マルタは壁にもたれた。腰から小さな布袋を外し、中を確かめる。そこには片方だけの古い作業靴が入っていた。


「息子のだよ。棺に入れてやろうと思ったんだけどね」


マルタは布袋の口を閉じた。


「息子が死んだ。棺と穴と祈りで、15万ルク。靴を入れるなら、棺を一つ大きくしろと言われた」


葬式の値段で、人生が終わる。

冗談のような話だった。


「払えないなら、埋められないと言われてね。名前を書いた」


「それだけで奴隷か」


「それだけ、じゃないんだろうよ。紙にはいろいろ書いてあった。けど、あたしには読めなかった」


マルタは乾いた指で、自分の首輪を叩いた。


「名前を書いたら終わりだ。あとは紙の方が、人間より強い」


ノアが何も言わずに俯いていた。


マルタはノアを見た。


「この子はまだ、終わってないと思ってる。妹の薬が効けば、戻れるってね」


ノアの指がパンのかけらを握りつぶした。


「戻るよ」


声は小さかった。

けれど、震えていた。


「ミナ、待ってるから」


レイジはスープを見た。薄い油が一筋、表面に浮いている。


妹の薬代も、息子の葬儀代も、身元不明者の保護費用も、同じ帳簿の上ではただの借金だった。


全部、名前が違うだけだ。


人が断れない瞬間に、紙が差し出される。

そして、名前を書いたら終わり。


怒りは、まだ熱くならなかった。


ただ、腹の底に沈んだ。

沈んだものは、簡単には消えない。


その夜、扉の外で監督役の声がした。


「新入り。明日は帳簿部屋だ。男爵さまの台帳を汚すなよ」


帳簿。


その言葉だけが、妙に耳に残った。


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