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転生したら奴隷にされたのでリーマンショック起こして異世界経済崩壊させます  作者:


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第2話 30万ルクの値札

ノアはパンのかけらを、少しずつ歯で削って食べていた。


急いで食べれば、すぐなくなる。

それを知っている食べ方だった。


「お前、どうしてここにいる」


レイジが聞くと、ノアは首をすくめた。


「妹の薬」


「薬?」


「ミナっていうんだ。よく熱が出る。咳も止まらなくて。お医者さまに診てもらうには、お金がいるって」


ノアは指を二本立てた。


「20万ルク」


子供の声にしては、その数字だけが重かった。


「そんな金、持ってたのか」


「ないよ」


ノアは笑わなかった。


「だから、書いた。おじさんが、名前を書けば薬を出してくれるって。働けば返せるって言った」


「誰が」


「男爵さまの人」


契約書。名前。薬代。

レイジの頭の中で、嫌な形に線がつながった。


ノアは床に視線を落とした。


「でも、返せなかったら鉱山だって。鉱山に行ったら、帰ってきた人、あんまりいない」


「あんまり?」


「うん。たまに、すごく細くなって帰ってくる人はいる」


ノアはそこで黙った。

子供の想像力が、そこから先を避けていた。


扉が乱暴に開いた。


監督役の男が立っていた。手には紙束がある。


「新入り。確認だ」


紙束を投げられ、レイジは反射的に受け止めた。

文字が見えた。


読める。


読めてしまう。


文字を覚えた記憶はない。

だが、この身体の奥に残っていたものが、線の意味を拾っていた。

久我怜司の頭が、それを数字と契約の形に並べ直す。

理屈は分からない。

だが、読めるなら使うしかない。


「明日、契約官が来る。形だけでも確認済みにしとかねえと面倒なんだよ」


監督役はあくびを噛み殺した。


「どうせお前らには分かりゃしねえがな」


契約書。

保護契約。

対象者、レイジ。

保護費用。


紙の上に、数字が並んでいた。


パンとスープと寝床。その一つ一つに、保護料だの紹介料だの管理料だの、別の名前の金が重ねられていた。


合計。


30万ルク。


レイジは目を止めた。


パン一つ、薄いスープ一椀、石の床で眠った一晩まで、帳簿の中では金に変わっていた。


それが、30万ルク。


「見ても分かんねえだろ」


監督役が笑った。


「ありがたく思え。男爵さまは慈悲深い。身元のないお前を拾って、飯と寝床まで与えてくださった」


拾った。


この紙では、そう書くらしい。


レイジの指先に、紙の端が食い込んだ。


身体の記憶が、かすかに揺れる。

雨。空腹。扉の中。穏やかな声。


『これは保護契約だ。名前を書くだけでいい』


署名したのは、久我怜司ではない。

この身体の持ち主だったレイジだ。


だが、首輪は今、自分の首を締めている。


ノアが小さく言った。


「レイジ、あんまり見ない方がいいよ」


「どうして」


「紙を見てると、怒られる」


監督役が鼻で笑った。


「契約は契約だ。読もうが読むまいが、名前を書いたら終わりだ」


レイジは紙を返した。


怒鳴らなかった。

殴りかからなかった。


ただ、30万ルクという数字だけが、喉の渇きより強く残った。


20万ルクで、ノアは鉱山に送られる。

30万ルクで、自分には首輪がつく。


返させるための金額ではない。


値札だ。


人間を帳簿に置くための。


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