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転生したら奴隷にされたのでリーマンショック起こして異世界経済崩壊させます  作者:


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24/25

第24話 売る側に回るカシアン

グラント商会の販売台は、三日で整った。


王都中央通りに面した本店。

厚い扉。

磨かれた床。

奥には王家の紋を入れた布が吊られている。


その前に、王国支援証書が置かれた。


赤い蝋の印。

財務卿の署名。

一口10万ルク。

半年後、10万8000ルク。


証書は、少し高い位置に置かれていた。


客が見上げる高さだった。


カシアンは、販売台の横に立った。


「王国支援証書です」


声は明るい。

だが、軽くはない。


「一口10万ルク。王国財務府発行。王家の印つき。半年後、10万8000ルクの返礼があります」


下級貴族の男が証書を見る。


「王家の印か」


「はい」


カシアンは証書の下部を指した。


「財務卿の署名もあります。教会も、王国を支える善い行いとして勧めています」


「教会も?」


「聖白教会が購入を予定しています」


予定。


便利な言葉だった。


実際にどれだけ買うかは、まだ誰も知らない。

だが、聞く側には十分だった。


王家と財務卿、教会、グラント商会。その名前が一枚の紙に重なっていた。


安心材料が、紙の周囲に並んでいく。


客は紙の中身よりも、周りを見る。


「珍花やサロンとは違いますな」


別の貴族が言った。


カシアンは笑みを崩さなかった。


「もちろんです」


最後尾のカシアン。


その言葉は、まだ消えていない。


だからこそ、彼は売る側に立っている。


会に入れてもらうカシアンではない。

王国の証書を扱う若き商人。


見られ方を変えるには、席ではなく台を取ればいい。


その日の昼、扇の裏で彼を笑っていた男爵夫人が来た。


リーゼ家再建サロンで、カシアンの名簿を見ていた女だった。


彼女は販売台の前で足を止め、証書を見る。


「カシアンが、直接扱っていらっしゃるのね」


「王国のためですから」


カシアンは軽く頭を下げた。


夫人は少し迷ったあと、さらに声を落とした。


「二口、お願いできますか」


部下が証書を二枚、箱から出した。


一枚。

二枚。


カシアンはそれを並べる。


「二口で、20万ルクです」


夫人は小さな革袋を台に置いた。


銀貨が鳴る。


客の手元から銀貨が離れる。

代わりに、赤い印の紙が二枚渡される。


夫人は証書を受け取った。


その時、後ろの貴族たちが見ていた。


最後尾のカシアンと笑った側の者が、今度は彼の販売台で証書を買う。


カシアンは、完璧な笑みで受けた。


「王国へのご支援、確かに承ります」


周囲の視線が少し変わった。


笑う対象ではない。

窓口の向こう側にいる者を見る目だった。


部下が奥で販売台帳を開いていた。


帳簿には、購入者名と身分、口数が書かれていた。

何口、つまり10万ルクの証書を何枚分買ったか。

入れた銀貨、販売担当者、説明済み事項、確認印まで残っている。


台帳は、誰に何を売ったかを忘れないための記録帳だった。


カシアンは客ごとに、同じ説明をした。


「返礼は王国財務府から行われます」

「時期は証書に記載されています」

「王国を支える名誉ある証書です」

「王家の印が、正式発行の証です」

「教会も推薦しています」


部下がその言葉を書き留める。


説明文言。

販売担当、カシアン・グラント。

確認印。


小さな印が、台帳に押される。


レイジが見れば、笑うだろうか。


カシアンはふと、そう思った。


いや、笑わないだろう。


彼は笑わずに、残った紙を見る。


だから厄介だった。


「カシアン」


部下が低く言った。


「説明文言まで残す必要がありますか」


「ある」


「責任を広げることにもなります」


「逆だ」


カシアンは台帳を閉じさせなかった。


「説明したことを残す。王家の印も見せた。財務卿の署名も見せた。教会の推薦も伝えた。買うのは客だ」


部下は黙った。


その理屈は通る。


少なくとも、今は。


最初の客は、下級男爵だった。


二口。

20万ルク。


次は、商人。

一口。


その次は、騎士家の未亡人。

一口。


大金ではない。

だが、数が積まれる。


一口なら買える。


それが、この証書の強さだった。


大きな王国の未払いを、10万ルクずつに切る。

一枚なら、手が届く。

一枚なら、名誉にも見える。

一枚なら、危険が小さく見える。


夕方には、販売台の前に列ができた。


「王家の印つきなら安心だろう」


「教会も買うそうだ」


「グラント商会が扱っているなら、妙な紙ではない」


「王国を支えるなら、家名にもよい」


声が重なる。


カシアンは一人ずつ捌いた。


丁寧に。

無駄なく。

相手の不安に、必要な安心材料だけを渡す。


彼は有能だった。


だから売れた。


販売台帳の下に、手数料欄がある。


グラント商会販売手数料。

初日分、4万8000ルク。


大きくはない。

だが、確実に残る金だった。


買った者は、返礼日を待つ。

売った者は、今日手数料を得る。


買った紙が本当に戻るかは、半年後にならないと分からない。

だが、売った手数料は今日の帳簿に残る。


カシアンはその数字を見た。


買う側の損益とは関係なく、販売側に残る金。


「カシアン」


店の奥から、年配の商人が声をかけた。


「見事ですな。王国と商会の顔を同時に立てられた」


その声は、最後尾のカシアンと笑った声とは違った。


カシアンは軽く会釈した。


「王国を支えるためです」


誰に聞かれても困らない答えだった。


販売台帳には、別の答えが残っていた。


購入者名。

口数。

説明文言。

販売担当者。

カシアンの確認印。


誰が売ったかは、台帳に残る。


だが今は、誰もそこを見ない。


見ているのは、王家の印だけだった。


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