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転生したら奴隷にされたのでリーマンショック起こして異世界経済崩壊させます  作者:


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第17話 戻ってくる銀貨

最初の席は、八つだけだった。


リーゼ家の小広間に、古い椅子が並べられる。

脚の長さは少しずつ違う。

銀器も揃っていない。


だが、燭台は磨かれていた。

茶は薄いが、温かかった。

壁には、リーゼ家の家紋がかかっている。


珍花で得た銀貨の一部。

小口契約から戻り始めた返済分。

首輪を外すために崩した銀器の穴も、ほんの少しだけ埋まり始めていた。

それが、最初の茶と封蝋と、数枚の礼金袋になった。


下級貴族たちは、それを見た。


見たうえで、見ていないふりをした。


「良いお屋敷ですな」


ひとりが言った。


壁の染みも、欠けた床も、誰も指摘しない。


その上品さは、優しさではない。

互いに落ちかけた家だと分かっている者同士の、約束のようなものだった。


リーゼは広間の前に立った。


「本日は、リーゼ家再建サロンへ来ていただき、ありがとうございます」


声は少し硬い。


それでも、震えすぎてはいなかった。


レイジは奥の小部屋にいた。


扉は少し開いている。

広間の声は聞こえる。


机の上には、参加名簿。

机の上では、入金帳と返礼予定表、契約書が重ねて開かれていた。


ノアが横で銀貨を数えていた。


「3万ルク枠、三人」


「袋を分けろ」


「10万ルク枠、一人」


「別の記録帳に」


ノアは頷き、小さな指で銀貨を積む。


銀貨は美しくない。

傷がある。縁が削れている。人の手を何度も渡った金だった。


だが、机の上に積まれると音だけは強い。


参加者は、最初から大金を出さなかった。


3万ルクの入金が三つ続き、その下に10万ルクの数字が一つ混じっていた。


下級貴族にとって、軽くはない。

だが、家を傾ける額でもない。


「礼金は、三日後にお渡しします」


リーゼが言った。


そこで彼女は、机の上の小さな銀貨箱に手を置いた。


「ただし、契約書にある通り、礼金はこの会に残っている銀貨の範囲内です。箱に残る銀貨が足りなければ、支払いが遅れることがあります」


ひとりの婦人が笑った。


「リーゼ様は正直でいらっしゃる」


「隠すものではありませんので」


リーゼは答えた。


その正直さが、かえって上品に見えた。


危険がある。

だが、小口だ。

リーゼ家が表に立っている。

珍花で早く売り抜けた者も席にいる。


危ない契約でも、知っている貴族が一緒に入っていれば安心してしまう。


三日後。


最初の礼金が渡された。


奥の小部屋で、レイジは銀貨の袋を並べていた。


赤い紐の袋は、新しく入った参加金。

白い紐の袋は、今日返す礼金。


ノアが赤い紐の袋を開ける。


銀貨が机に落ちた。


じゃらり。


その中から、レイジは決まった枚数だけを白い紐の袋へ移した。


じゃらり。


同じ銀貨だった。

だが、袋を移ると名前が変わる。


入金。

礼金。


ノアはその手元をじっと見ていた。


「これ、さっき入ったお金だよね」


「そうだ」


「それを、前の人に返すの?」


「返す」


ノアは少しだけ眉を寄せた。


「でも、返ってくる人は嬉しいよね」


「ああ」


「本当に増えてるから」


「最初の人間は、本当に得をする」


レイジは短く言った。


ノアは白い紐の袋を見た。


「でも、赤い袋が空になったら?」


「白い袋も作れない」


ノアは黙った。


銀貨が戻る仕組みは、急に少し寒く見えた。


それ以上は説明しなかった。


銀貨の流れは、帳簿に書いてある。

読めば分かる。


読まなければ、礼金袋しか見えない。


広間に戻ると、3万ルクを出した男爵夫人の手に、3万3000ルクが渡された。


増えたのは3000ルクだけだった。


だが、銀貨が戻る音は軽くなかった。


「本当に、戻りましたのね」


夫人は小さく言った。


リーゼは礼金袋を両手で渡した。


「ご支援へのお礼です」


商売とは言わない。

儲けとも言わない。


礼。


その言葉なら、受け取る側も上品な顔ができる。


別の参加者にも礼金が戻る。


3万が3万3000。

10万が11万2000。


多すぎない。

だから怪しすぎない。


少し得をした。


それが、一番よく広がる。


広間では、礼金を受けた男爵夫人が茶を飲んでいた。


「リーゼ様の会は、思っていたより堅実ですわ」


「珍花の時も、早く降りた方は助かりましたものね」


「グラント商会より小さいのが、かえって安心です」


笑い声は小さかった。


だが、扉の隙間から入ってくるには十分だった。


リーゼが奥の部屋へ戻ってきた。


彼女の顔には疲れがあった。


「皆、安心しています」


「そうだろうな」


「私も、少し安心しました。本当に返せたので」


「返せた」


レイジは帳簿を閉じなかった。


「返せる間はな」


リーゼはその言葉を聞いて、机の上の銀貨を見た。


戻った銀貨と新しく入った銀貨、まだ返していない銀貨が、同じ帳簿の上に並んでいた。


同じ銀貨なのに、置き場所で意味が変わる。


「怖いですね」


「何が」


「戻っているから、怖くないように見えることが」


レイジは返事をしなかった。


広間では、礼金を受け取った者が次の招待者の名を出していた。


説明よりも、礼金が返ってくる音の方が効いた。

それを見た者が、次の参加者を連れてきた。


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