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転生したら奴隷にされたのでリーマンショック起こして異世界経済崩壊させます  作者:


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第14話 バルガスの珍花夜会

バルガス邸の窓には、青い花が飾られていた。


門から廊下、階段、客間、食堂まで、花は屋敷の中へ入り込んでいた。


珍花は、屋敷中に置かれていた。


淡い青の花弁に灯火が当たり、銀の筋が揺れる。

遠目には悪くない。


だが、近づくと香りはほとんどなかった。

水を吸いすぎた茎が、少し青臭いだけだ。


使用人たちは困っていた。


「これ、どこに置くんだ」


「廊下はもう埋まってる」


「水を替えろって言われても、鉢じゃないんだぞ」


「昨日の分、もう端が萎れてる」


声は低い。

だが、量が多すぎて隠しきれない。


レイジは屋敷の外にいた。


正面から招かれてはいない。

花の追加納入という名目で、裏口近くまで来ただけだ。


リーゼも同行していた。

貴族の夜会に出る服ではない。だが、この屋敷の様子を知るには十分だった。


「ここまで買い集めるとは思いませんでした」


リーゼが言った。


「勝ったように見せたいんだろう」


「花で?」


「花で」


レイジは荷を下ろした。


今日の値札は、もう市場には出していない。

バルガスが使いを出して、言い値で押さえに来たからだ。


一束、30万ルク。


市場の端で最初に並べた時の600倍だった。


ノアが荷台の後ろで、花束を数えている。

顔はまだ慣れていない。


「これ一束で、レイジの最初の借金と同じ?」


「そうだな」


ノアは花を見た。


「軽いのに」


「軽いものにも、値札はつく」


その言葉は、自分の首にも返ってきた。


門の近くで、招待客の貴族が笑っていた。


「男爵も気の毒に。リーゼ家の件で契約を読み違えたなどと、王都は噂が早い」


「だから今夜は珍花なのだろう。先に見抜く目はある、と示したいわけだ」


「契約では失敗しても、流行は読めると」


小さな笑い。


リーゼの顔がこわばった。


バルガスは客間にいた。


窓越しに見えたバルガスは、穏やかな笑みを浮かべ、整った髭を撫でていた。

珍花を前に、貴族たちへ何か語っている。


「王都では、早く見抜く者だけが席を取るのです」


声が漏れてきた。


「市場の端に転がっていたものでも、目利きがあれば宝になる。遅れた者は、後から高値で買うしかない」


客たちが笑う。


「さすが男爵」


「先を読む目がおありだ」


「リーゼ家の件では痛い目を見られたと聞きましたが、これで取り戻されましたな」


バルガスは困ったように笑った。


「契約の読み違いは、誰にでもあることです。しかし商売は別です」


リーゼの手が、外套の端を握った。


バルガスは続けた。


「元は私の屋敷にいた者が始めた小商売です。小銭稼ぎとしては悪くなかった。ですが、物の価値を広げるには、やはり身分と場が要る」


レイジを見ていない。

だが、言っている相手は明らかだった。


奴隷上がりが見つけたものを、貴族が育てる。


そういう形にしたいのだ。


リーゼは低く言った。


「男爵は、本当に自分が勝ったと思っているのですね」


「勝ったように話している」


「違うのですか」


「まだ売れているうちは、違わない」


リーゼは黙った。


その顔には、怒りだけではないものがあった。


失望。


自分がいた貴族社会の、見栄の匂いを嗅いだ顔だった。


夜会の中では、さらに花が褒められていた。


「北方の宮廷で流行しているとか」


「いや、西方の大公妃が好んだと聞いた」


「希少なのでしょう?」


「もちろんです。市場にはもう出ていません」


誰も正確な出所を知らない。

知らないから、好きな話を乗せられる。


希少で、貴族が買い、市場から消えた。早い者だけが得をする。噂はそういう形で広がっていた。


その言葉だけで、花は高そうに見えた。


裏口に、別の馬車が止まった。


グラント商会の紋。


カシアンが降りてきた。


「レイジさん」


今日も笑顔だった。

だが、前より少しだけ目が冷静だ。


「ずいぶん、男爵家に寄せましたね」


「買うと言われた」


「売った、ですか」


「売り物だからな」


カシアンは屋敷の窓を見た。

青い花で埋まった客間を見て、軽く息を吐く。


「貴族は、見栄のためなら高くても買います」


「商人の言葉か」


「貴族相手の商人の言葉です」


カシアンはそう言い、手元の花束を一つ持ち上げた。


「私は、少し売りました。少し残しました。全部降りるには、まだ惜しい。全部抱えるには、少し臭い」


「臭い?」


「高くなりすぎたものは、崩れる前に変な動きをします」


カシアンは笑った。


「売りが増えたり、噂が増えたりしますから」


こいつは気づき始めている。


レイジはそう思った。


だが、完全には降りない。


値札がまだ動いているからだ。


カシアンは低い声で部下に言った。


「北方の噂を確認しておきなさい。あと、市場裏の荷箱も」


部下が頷く。


「花の出所ですか」


「出所ではなく、残りの量です」


カシアンは笑みを崩さない。


「希少なものなら値が残る。希少でないなら、値札だけです」


その判断は正しい。


だが、少し遅い。


夜会の終わり近く、ひとつの噂が入ってきた。


市場の花荷を扱う男が、使用人に囁いた。


「北方王族が、この花を嫌っているらしいぞ」


「流行ではないのか」


「逆だ。葬列の飾りに似ているとかで、縁起が悪いって話だ」


その噂は、小さかった。


だが、小さい噂ほど、夜会ではよく育つ。


同じ頃、市場の倉庫には、まだ開けていない木箱が残っていた。


青い花が、布の下で静かに眠っていた。


珍しいという話だけが、花を支えていた。


支えているものに、ひびが入った。


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