報告2
その名を聞いて、エレアも静かに頷いた。
「まさか、あの方から情報を得てくるとは思いませんでした。」
「ご存じなんですか?」
レインが尋ねると、エレアは小さく苦笑する。
「もちろんです。私はあの方を知る立場にいました。アルディア王国の上層部で、その名を知らない者はいません。」
アレクシスも静かに言葉を継いだ。
「あの方は、この大陸でも指折りの情報屋じゃ。王であろうと、大商会であろうと、裏ギルドであろうと関係ない。金も宝石も秘宝も、あの方にとっては価値にならん。自ら価値があると認めた話にしか動かぬ。」
「だからこそ、各国の王侯貴族ですら無理に会おうとはせん。機嫌を損ねれば、その時点で縁が切れるからじゃ。」
レインは納得したように頷いた。
「何を話した。」
アレクシスは静かに尋ねる。
「子どもの頃に師匠へ拾われて育てられたことです。剣も魔法も、生き方も全部師匠に教わったと話して、それから師匠の名前を伝えました。」
アレクシスは静かに目を閉じた。
「……そうか。」
小さく漏れたその一言には、どこか納得したような響きがあった。
それならイゼルダが動いた理由も理解できる。
あの方は昔から、人そのものを見ていた。
強さでも身分でもない。その人間が歩んできた人生に価値を見出した時だけ、惜しみなく力を貸す。
「それから一時間ほど待ってくれと言われました。」
「自ら情報を集めに行かれたのか。」
エレアが驚きを隠せず呟く。
「はい。戻ってきた時にはカルドニア王国の情報をまとめてくれていました。」
「やはり、あの方らしい。」
アレクシスは感慨深げに呟いた。
「それほどの人物だったんですね。」
「情報量だけなら、一国の情報機関にも引けを取らん。もっとも、欲しい時に必ず力を貸してくれる相手ではないがな。」
そこまで話したレインは、不意に何かを思い出したように口を開く。
「そういえば、帰る時にこんなことも言っていました。」
「何じゃ。」
「『今度、あの馬鹿に酒でも持って会いに行くか』って。」
レインは少し笑みを浮かべる。
「師匠とは昔からの親友らしいですね。」
その瞬間だった。
アレクシスの呼吸が止まった。
心臓が大きく脈打ち、身体からゆっくりと血の気が引いていく。
握っていた両手には知らぬ間に力が入り、机の下でわずかに震えていた。
「……学園長?」
エレアの声にも反応できない。
レインからヴェルガストという名を聞いた時、確かに動揺した。
しかし、それでも心のどこかでは信じ切れていなかった。
あまりにも昔の人物だった。
戦場を災害のような力で蹂躙したあの男が、今なお生きているなど考えられなかったからだ。
だから、自分の聞き間違いかもしれない。同じ名を持つ別人かもしれない。
そう思うことで、自らを納得させていた。
だが――違う。
イゼルダが現在形で「あの馬鹿」と呼び、酒を持って会いに行くと言った。
それは憶測でも噂でもない。
長い時代を生き、誰よりもヴェルガストを知るイゼルダ自身の言葉だった。




