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英雄なのか?  作者: よろず
戦争準備編
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86/212

第四騎士団総隊長 ヴィルヘルム・ガーランド


街を出たナルは、そのまま北へ続く街道を進んでいた。


城塞都市を離れるにつれ、行き交う兵士の数はさらに増えていく。補給部隊は昼夜を問わず最前線へ物資を運び、道端には野営地が点在していた。休息を終えた部隊が持ち場へ戻り、伝令の騎兵が慌ただしく前線と後方を往復している。


やがて巨大な要塞が姿を現した。


幾重にも築かれた木柵と厚い石壁。その向こうには無数の軍幕が並び、要塞中央には第四騎士団の紋章を掲げた大天幕がそびえている。


北方方面軍総司令部だった。


警戒線へ近づくと、槍を構えた兵士たちが進路を塞ぐ。


「止まれ。」


隊長格の兵士が一歩前へ出た。


「所属と用件を述べろ。」


ナルは馬を降り、落ち着いた口調で答える。


「傭兵ナルです。第四騎士団総隊長へ届けたい物があります。」


兵士の表情がわずかに変わった。


「総隊長へ?」


「アルディア騎士学校学園長、アレクシス・フォン・ヴァルハルト殿の名をお借りして参りました。」


その名を聞いた隊長格の兵士は、すぐに伝令を走らせた。


しばらくして戻ってきた兵士が短く告げる。


「通れ。総隊長がお会いになる。」


ナルは一礼し、本営へ案内された。


大天幕の中には巨大な地図が広げられ、各所へ木札が置かれている。将校たちは地図を囲み、伝令が絶え間なく出入りしていた。


その中央で、一人の男が振り返る。


五十代半ばと思われる堂々たる体躯。


白髪交じりの短髪に、幾筋もの古傷が刻まれた顔。静かな眼差しには、長年北方を守り続けてきた将としての威厳が宿っていた。


「私に届け物とは珍しいな。」


低く響く声が天幕へ広がる。


第四騎士団総隊長、ハルヴォ・グレイゼン。


ナルは一礼し、懐から資料を取り出した。


「急ぎお届けすべき情報と判断し、直接持参いたしました。」


ハルヴォは資料を受け取ると、その場で目を通し始める。


ページをめくるたび、その表情は次第に険しくなっていった。


カルドニア王国第八位『黒雷』ゼクト・ヴァルガンの前線移動。


補給路の変化。


ノルガルト侯国で進む軍備増強。


そして複数の部隊配置予測。


読み終えたハルヴォは静かに顔を上げた。


「……情報源は。」


「ノルガルト侯国第二都市ベルクハイムに住む情報屋の老婆です。」


その一言で、ハルヴォの目がわずかに細められた。


「なるほど。」


短く呟き、資料を閉じる。


「ならば、この内容にも納得がいく。」


周囲の将校たちは互いに顔を見合わせた。


一人の将校が口を開く。


「総隊長、その情報屋をご存じなのですか。」


「顔を合わせたことはない。」


ハルヴォは静かに首を振る。


「知っているのは存在だけだ。王国上層部でも、その存在を知る者は多くない。」


それだけで将校たちは口を閉ざした。


ハルヴォは再びナルへ視線を向ける。


「お前は会ったことがあるのか。」


「はい。ベルクハイムで初めてお会いしました。」


「そうか。」


ハルヴォは静かに頷くと、資料を机へ置いた。


「この情報は信用に値する。」


その一言で、天幕の空気が変わる。


将校たちは一斉に地図へ向き直り、それぞれが持ち場へ散っていく。


北方方面軍総司令部は、その情報を受け、静かに動き始めた。

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