表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄なのか?  作者: よろず
戦争準備編
PR
78/212

北へ


二日後、一人の男がアルディア王国王都へ姿を現した。


朝の北門には各地から集まった商隊や旅人が長い列を作り、門番たちが慣れた手つきで通行証を確認している

その列の最後尾へ、一人の男が静かに並んだ。


腰には使い込まれた長剣。


背には旅装。


無精髭を生やした中年の傭兵。


どこにでもいそうな旅人だったが、その顔を見た門番の一人が目を見開く。


「……ナル殿」


ナルは苦笑しながら軽く手を上げた。


「お久しぶりです」


隊長格の兵士が前へ出ると、通行証へ目を通し、そのまま返した。


「今回はお仕事ですか」


「ええ。少し王都で人と会う約束がありまして」


「承知しました。ようこそアルディア王国へ」


ナルは軽く頭を下げると、そのまま門をくぐる。


背中が人混みへ溶け込んでいくのを見送りながら、若い兵士が小声で尋ねた。


「隊長、あの方は……」


「あれがナル殿だ。失礼のないよう覚えておけ」


それだけで十分だった。


若い兵士たちは姿勢を正し、去っていく背中を見送る。


一方のナルは、久しぶりの王都をゆっくり歩いていた。


鍛冶屋から響く金槌の音。


露店から漂う焼き立てのパンの香り。


行き交う人々の笑い声。


どれも昔と変わらない。


「相変わらず賑やかな街ですねぇ」


自然と笑みが浮かぶ。


やがて目的の宿へ辿り着くと、主人が笑顔で迎えた。


「いらっしゃいませ」


「一部屋お願いします」


「もちろんです。それと、お連れ様がお待ちですよ」


ナルは少しだけ目を細めた。


「もう来られていましたか」


主人に案内され二階へ上がる。


客室の前で主人が扉を叩くと、中から落ち着いた声が返ってきた。


「どうぞ」


扉が開く。


部屋の中央では旅装姿のレインが静かに立ち上がっていた。


「お待ちしていました」


「こちらこそ、お待たせしました」


主人が部屋を出ると、扉が閉まる。


二人は向かい合って椅子へ腰を下ろした。


レインは懐から一枚の地図を取り出し、机へ広げる。


「早速ですが、頼みがあります」


「お聞きしましょう」


指先が北方を示した。


「ノルガルト侯国へ入りたいんです」


ナルは地図を見つめたまま頷く。


「情報収集ですね」


「はい。カルドニア王国がどこまで関与しているのか。そしてノルガルト侯国内で何が起きているのか、自分の目で確かめたいと思っています」


数秒の沈黙。


やがてナルは腕を組んだ。


「危険ではありますが、不可能ではありません」


その返答にレインは静かに頭を下げる。


「そこでお願いがあります。必要な時だけ力を貸してください」


「必要な時だけ?」


「普段はこれまでどおり自由に活動してください。ですが、私が依頼した時だけ協力していただければ十分です」


ナルは思わず笑った。


「面白い契約ですね。普通なら囲い込みたがるものですが」


「ナルさんほどの方を縛れるとは思っていません」


その返事に、ナルは肩を揺らして笑う。


「なるほど。それなら納得です」


右手を差し出す。


「お受けしましょう」


レインもその手を握り返した。


「ありがとうございます」


「ただし一つだけ。危険だと判断した時は止めますし、撤退すべき時は迷わず撤退します。その判断は私に任せてください」


「もちろんです」


短い握手で十分だった。


契約は成立した。


ナルは地図を畳みながら立ち上がる。


「では、今日中に準備を済ませましょう。夜明けと同時に出発します」


「分かりました」


その日のうちに二人は旅に必要な物資だけを揃え、翌朝まだ日が昇る前に王都を後にした。


北へ続く街道を三日。


宿場町で馬を乗り継ぎながら進んだ二人は、夕暮れ前、ノルガルト侯国国境手前にある交易都市へ到着する。


高い城壁の向こうには無数の荷馬車が並び、各地から集まった商人や護衛たちが慌ただしく出発の準備を進めていた。


レインは城門の先に広がる光景を静かに見つめる。


ここから先が、本当の任務の始まりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ