表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄なのか?  作者: よろず
戦争準備編
77/239

二年生卒業試験演習


アレクシスは報告書を閉じると、椅子から静かに立ち上がった。


無言のまま壁一面に広がる戦略地図の前へ歩く。


レインもそれに倣って席を立ち、その隣へ並んだ。


地図にはアルディア王国を中心に、フェルド公国、ライゼン自由都市連合、ノルガルト侯国、そして北方のカルドニア王国までが記されている。


部屋を包む空気が変わった。


学園長ではない。


長年、王国を支えてきた軍人としてのアレクシスがそこに立ていた。

「本題に入ろう」視線を地図へ向けたまま口を開く。


「明日、二年生は卒業試験演習へ出発する」


「北方ですか」


「ああ」


短く頷く。


「二年間の総仕上げじゃ。例年通り、各騎士団の管理下で北方各地へ派遣される」


エレアが言葉を引き継いだ。


「演習とは名ばかりです。実際は実戦任務に近いものになります。警戒、補給護衛、避難誘導……状況によっては戦闘も避けられません」


レインは黙って地図を見つめる。


ミルデン。


あの街で見た炎と血の匂いが脳裏をよぎった。


「……ただ」


アレクシスの声が低くなる。


「今年は例年通りとはいかん」


指先がノルガルト侯国へ触れ、そのままカルドニア王国まで滑った。


「今回の件で、カルドニア王国が裏で動いておることは、ほぼ間違いない」


「ですが、証拠はありません」


エレアが冷静に補足する。


「ナルの証言だけでは外交を動かす理由にはなりません」


「分かっておる」


アレクシスは苦笑した。


「だから演習は予定通り実施する」


レインはその言葉に視線を向ける。


「止めないんですか」


「止める理由がない」


即答だった。


「ここで予定を変えれば、こちらが何かを掴んだと相手へ教えるようなものじゃ」


その判断に迷いはない。


長年、王国を守り続けてきた経験がそう告げていた。


部屋に静寂が落ちる。


誰も口を開かない。


アレクシスは再び地図へ目を向け、小さく息を吐いた。


「……嫌な予感がする」


ぽつりと漏れた一言だった。


レインは何も言わない。


エレアも黙ったまま学園長の横顔を見つめている。


「根拠はない」


アレクシスは自分へ言い聞かせるように呟く。


「じゃが、嫌な予感ほど当たるものじゃ」


その言葉には、幾度となく戦場を潜り抜けてきた者だけが持つ重みがあった。


ミルデン。


ノルガルト侯国。


カルドニア王国。


それぞれが一本の線で繋がりそうで、まだ繋がらない。


だからこそ、不気味だった。


アレクシスはゆっくりと振り返る。


「レイン」


「はい」


「ナルが王都へ着き次第、ノルガルト侯国へ潜入してくれ」


「潜入ですか」


「ああ」


アレクシスは頷いた。


「ナルは傭兵として国境を越えられる。お前は商隊へ紛れ込め。表向き、ナルはその護衛じゃ」


エレアが続ける。


「目的は戦うことではありません。現地で何が起きているのか、その目で確かめてください」


「カルドニア王国の影がどこまで伸びておるのか。それを知りたい」


アレクシスは真っ直ぐレインを見据えた。


「わしの勘違いなら、それで構わん」


一拍置く。


「……じゃが、もし嫌な予感が当たっておったなら、手遅れになる前に動かねばならん」


レインは静かに頷いた。


「承知しました」


短い返答だった。


しかし、その一言だけで十分だった。


アレクシスは満足そうに頷くと、再び北方へ視線を戻す。


ノルガルト侯国。


そのさらに北に位置するカルドニア王国。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ