帰国
翌日から一年Sクラスはミルデンの復興支援へ回された。
本来であれば北方最前線へ赴き、実際の軍務を見学する予定だった。しかし街への大規模な破壊工作が発生した以上、軍も民も深刻な人手不足に陥っている。実地訓練の内容は急遽変更され、生徒達も復旧作業へ加わることになった。
任された仕事は実に様々だった。
焼失した建物の撤去と片付け。仮設住居の設営。各地から運び込まれる支援物資の荷下ろし。炊き出しの補助。避難民の誘導。負傷者の搬送。
戦場で剣を振るうこととは違う。
それでも、この街を立ち直らせるためには、どれ一つ欠かすことのできない仕事ばかりだった。
ラグナは兵士達と張り合うように瓦礫を運び続け、その働きぶりに屈強な兵士達でさえ感心していた。
アイリスは神官達の補助として負傷者の手当てを手伝い、シルヴィアは避難民の子ども達の世話や炊き出しへ加わる。
セドリックやレオニス達も物資運搬や仮設住居の設営に汗を流し、レインも兵士達と共に街中を回り、黙々と復旧作業へ取り組んでいた。
慌ただしい二日間は、驚くほど早く過ぎ去った。
戦い直後は混乱に包まれていた街も、少しずつ落ち着きを取り戻していく。
焼け落ちた建物はまだ各所に残っている。
それでも街を行き交う人々の表情には、確かな活気が戻り始めていた。
そして三日目の朝。
一年Sクラスへ帰還命令が下る。
宿舎前へ向かった生徒達は、思わず足を止めた。
兵士達。
商人達。
避難民。
そして、多くの住民達が見送りに集まっていたのである。
「もう帰るのか」
「本当に助かったよ」
「アルディアへ戻っても頑張れよ!」
次々と飛んでくる感謝の言葉に、ラグナは照れ臭そうに頭を掻き、アイリスは何度も頭を下げる。
シルヴィアも穏やかな笑みを浮かべ、一人ひとりへ丁寧に応えていた。
レインは静かに街を見渡した。
ここへ来た時、ミルデンには戦争の緊張しか漂っていなかった。
だが今は違う。
街は傷付いている。
それでも、人々は前を向いて歩き始めていた。
その姿を見ていると、自分達が積み重ねた仕事も決して無駄ではなかったのだと、自然と思えた。
やがて出発の時刻を迎える。
帰路も実地訓練の一環だった。
全員が軍馬へ跨がる。
アルドは先頭へ立ち、生徒達を見回した。
「出発する」
短い号令と共に馬が駆け出した。
住民達は姿が見えなくなるまで手を振り続け、その光景はいつまでも生徒達の目に焼き付いていた。
帰路は騎乗訓練を兼ねた長距離移動だった。
朝から夕方まで軍馬を走らせ、途中の駐屯地や宿場町で休息を取りながら王都を目指す。
慣れない長時間の騎乗に、生徒達は次第に疲労を隠せなくなっていく。
三日目には、あれほど体力自慢だったラグナでさえ腰を押さえて苦笑していた。
それでもアルドは速度を落とさない。
騎士にとって騎乗技術は、剣術や魔法と並ぶ重要な技能だからだ。
そして四日後の夕方。
巨大な城壁が夕日に照らされながら姿を現した。
アルディア王国王都。
見慣れたはずの景色にもかかわらず、生徒達の間からは自然と安堵の息が漏れる。
長かった北方実地訓練が、ようやく終わったのだ。
学園へ到着した頃には、西の空が茜色へ染まり始めていた。
実地訓練へ出ている間にも、学園では卒業へ向けた準備が進められていたらしい。
卒業まで残り一ヶ月。
校内にはどこか慌ただしい空気が流れていた。
ようやく寮へ戻れる。
そう思いながら歩き始めたレインの前へ、一人の教員が近付いてくる。
「レイン・クロード」
名を呼ばれたレインは足を止めた。
教員の表情を見た瞬間、小さく息を吐く。
どうやら、ゆっくり休ませてもらえる気配はない。
「学園長がお呼びだ」
その一言に、周囲の生徒達が一斉に振り返った。
帰還した、その日である。
普通の呼び出しとは思えない。
「……今からですか?」
「ああ。到着したら、すぐ来るようにとの指示だ」
教員は苦笑しながら肩を竦めた。
実地訓練を終えたばかりだというのに、荷物を置く時間すら与えられないらしい。
レインは諦めたように頷く。
「分かりました」
こうしてレインは寮へ向かう足を止め、そのまま学園長室へ向かうことになった。




