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英雄なのか?  作者: よろず
戦争準備編
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ミルデン6


指揮官室は重い沈黙に包まれていた。


だが、その場にいる全員が同じ結論へ辿り着いている。


恐らく猶予はない。


今日を越えるか、明日を越えるか。


その程度の差でしかなかった。


やがてガレスが静かに立ち上がる。


「グレアム」


「はっ」


「警戒態勢を第二段階へ移行する。倉庫街、橋、給水施設、補給路を重点警戒対象に指定しろ」


「了解」


「巡回も増やせ。ただし敵へ悟らせるな。警備を強めても、普段通りを装え」


「承知しました」


グレアムは即座に伝令を呼び、各部隊へ命令を飛ばし始める。


机へ広げられた地図には、新たな配置が次々と書き込まれていった。


その光景を見つめていたアルドが口を開く。


「敵が動くなら森を抜けた後だな」


「恐らくな」


ガレスが短く答える。


ミルデンへ辿り着くには、街道沿いの川を渡らなければならない。


「渡河中を叩きますか」


グレアムが尋ねる。


しかしアルドは首を横へ振った。


「いや、渡り切らせる」


室内が静まり返る。


ガレスだけはすぐに意図を理解した。


「森を背負わせたくないか」


「そうだ」


アルドは地図の森を指でなぞる。


「森の中は敵の庭だ。潜伏場所も多く、工作員との連携も取りやすい」


その指先は川を越え、開けた平地へ移る。


「だが、渡り切れば話は別だ」


「騎兵が使える……」


グレアムが納得したように呟く。


「敵を川で足止めし、渡河後に迎え撃つ。それが一番被害を抑えられる」


アルドは静かに言い切った。


元第三騎士団第五席として積み重ねてきた経験に裏打ちされた判断だった。


ガレスは一度だけ頷く。


「なら迎撃は任せる」


「了解した」


話はそこで終わった。


少なくとも、レインにとっては。


ここから先は軍が決める領域であり、学生が口を挟む話ではない。


アルドもそれを理解していた。


「お前は戻れ」


「了解しました」


レインが一礼すると、アルドは地図へ視線を戻したまま言う。


「明日から忙しくなるぞ」


嫌な予感しかしなかった。


だが聞き返す暇もなく、アルドはすでにガレスたちとの作戦会議へ戻っている。


レインは小さく肩をすくめ、指揮官室を後にした。


廊下では伝令たちが絶え間なく走り、兵士たちも静かに持ち場を移動していく。


表向きのミルデンは何一つ変わらない。


だが、その静けさの裏では、街全体が敵に悟られることなく戦闘態勢へ移りつつあった。


そして翌朝――。


その変化は、騎士学校の生徒たちの目にもはっきりと映ることになる。この形なら、


「指揮官室の空気が変わっていた」


「戦場の司令部だった」




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