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英雄なのか?  作者: よろず
戦争準備編
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ミルデン2


翌朝、一年Sクラスはグレアムに率いられ、ミルデン駐屯地へ向かった。


昨夜見た倉庫街のさらに奥――一般人の立ち入りが制限された軍用区域では、朝早くから兵士や文官たちが慌ただしく動き回っている。


荷馬車が次々と到着し、荷台から降ろされた食料や武具は手際よく仕分けられていく。


「第五砦行きだ! 急げ!」


「薬品はこっちへ回せ!」


あちこちで怒号が飛び交い、それでも現場に混乱はない。誰もが自分の役割を理解し、無駄のない動きで補給を回していた。


「今日は後方支援を手伝ってもらう」


グレアムの一言に、ラグナがあからさまに顔をしかめる。


「戦闘訓練じゃねぇのか」


「残念だったな」


グレアムは笑うことなく答えると、自らも荷箱を肩へ担いだ。


「兵は剣だけ振っていればいいわけじゃない」


一年Sクラスは各部署へ振り分けられる。


荷馬車への積み込み。


倉庫での仕分け。


補給品の運搬。


物資の確認。


最初は単純な力仕事にしか思えなかった。


だが、それはすぐ誤りだと知る。


一台積み終えれば、また一台。


さらにもう一台。


荷馬車の列は途切れることなく続き、どれだけ運んでも仕事が終わる気配はない。


「まだあるのかよ……」


額の汗を拭いながらラグナが息を吐く。


近くで荷を運んでいた兵士が苦笑した。


「兵は戦ってなくても飯は食うからな」


周囲から小さな笑いが漏れる。


だが、その言葉には妙な重みがあった。


昼近くには全員が汗だくだった。


剣を振る訓練とは違う疲労が全身へ積み重なっている。


それでも、この半日だけで理解できたことがある。


戦場で戦う兵士を支えているのは、こうした名もない人々と膨大な補給なのだ。


昼食を終えると、一年Sクラスは宿舎へ戻った。


会議室ではアルドが腕を組んで待っている。


昨日から姿を見せなかった担任は、相変わらず感情を表へ出さない。


「午後は自由行動だ」


それだけ告げると黙り込んだ。


何を調べるか。


どこへ向かうか。


すべて各自の判断に任せるということだ。


その意図を理解した一年Sクラスは、すぐに行動を開始した。


シルヴィアたちは商会街へ向かう。


公国商人やライゼンの商人から話を聞き、物流や物価の変化を探る。


輸送費の高騰。


各商会による備蓄の増加。


戦争を警戒して荷を抱え込む商人まで現れていることが分かった。


一方、ラグナたちは酒場へ足を運ぶ。


護衛や傭兵が集まる場所だけに、最初こそ警戒されたものの、酒を酌み交わせば口も軽くなる。


国境付近で増え続ける護衛依頼。


姿を消した傭兵団。


戻らない護衛部隊。


現場に近い者ほど、緊張感のある話ばかりだった。


高位貴族出身の生徒たちも独自に動く。


家の情報網を通じて各地の情勢を確認した結果、カルドニア王国軍の兵力増強や補給物資の集積、傭兵団の雇用拡大など、公には流れていない情報が届き始めていた。


レインは一人、市内を歩いていた。


昨日歩いた市場。


城門。


そして倉庫街。


同じ場所でも時間が変われば見えるものも違う。


商人は北へ向かう荷を気に掛け、兵士は街道の先へ視線を向ける。


城門を出入りする荷馬車も、その多くが北へ向かっていた。


街全体が北方を中心に動いている。


その事実だけが、胸の奥へ静かな違和感を残した。


そして夜。


夕食を終えた一年Sクラスは自然と会議室へ集まっていた。


誰かに言われたわけではない。


それぞれが持ち帰った情報を共有するためだった。


商人から聞いた話。


傭兵から聞いた話。


貴族の情報網から届いた報告。


一つひとつは小さな断片だった。


だが並べていくにつれ、同じ方向を指していることが分かる。


避難民は増え続けている。


軍は物資を蓄えている。


カルドニア王国軍は兵を集め、公国側も備えを急いでいる。


やがて沈黙の中で、一人がぽつりと呟いた。


「……戦争か」


否定する者はいなかった。


重い空気が会議室を包む。


ミルデンへ来るまでは、どこか遠い国境の話だった。


だが今は違う。


自分たちの目で見て、耳で聞き、足で集めた情報だからこそ理解できる。


北方を包む緊張は、噂ではない。


紛れもない現実だった。


窓の外では今も荷馬車の車輪が石畳を鳴らしている。


昼も夜も止まることなく動き続ける兵站都市ミルデン。


一年Sクラスは、その意味を少しずつ理解し始めていた。

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