別の評価
討伐したアーマーベアは解体して最低限の素材だけを回収し、残りは騎士団へ報告するため目印を残しておく。戦闘直後こそ緊張感が残っていたものの、森を抜ける頃には誰の顔にも疲労が浮かんでいた。アイリスの回復魔法で骨折や裂傷は治療されているが、失われた体力までは戻らない。ラグナなどは「腹が減った」と何度もぼやいていたし、フィオナは魔力を使い切ったせいで無言のまま歩いている。
そんな生徒達を先導するように歩きながら、アルドは不意に口を開いた。
「今回の戦闘だが、結果だけ見れば合格だ」
その言葉に何人かが顔を上げる。
「二体のアーマーベアを討伐し、村への被害も出なかった。任務そのものは成功だ」
そこまでは誰もが理解していた。
しかしアルドは続ける。
「だが戦い方は褒められたものではない」
疲れていた生徒達の表情が引き締まった。
「ラグナは受けすぎだ。レオニスは攻めすぎた。アイリスは前へ出すぎたし、セドリックは逆に慎重すぎる。フィオナの魔法は威力は十分だったが、戦場が変われば使えなくなる。シルヴィアも戦況把握は優秀だったが、指示が長い」
一人ずつ叱責するわけではない。
戦場全体を見た総括だった。
「お前達はそれぞれ優秀だ。だからこそ自分の得意分野に頼り過ぎる。戦場は自分の得意な状況だけで戦える場所じゃない」
森を吹き抜ける風の音だけが聞こえる。
アルドは振り返らないまま言葉を続けた。
「今回の相手はDランクだった。だから多少の無茶が通用した。だがCランク以上になるとそうはいかん。一つの判断ミスで死人が出る。騎士が覚えるべきなのは勝ち方ではない。生き残り方だ」
誰も反論しなかった。
実際に戦ったからこそ分かる。
アーマーベアは強かった。
レインが二体目を連れて来た時など、一歩間違えば全滅していても不思議ではない。
だからこそ全員が黙って聞いていた。
やがて森を抜け、村が見え始めた頃だった。
見張り台にいた村人がこちらへ気付く。
そして次の瞬間、大声が響いた。
「戻ったぞ!」
村が一気に騒がしくなった。
家々から人が飛び出してくる。
老人も、女性も、子供達もだ。
何事かと思った一年Sクラスだったが、村人達の視線がアーマーベアの素材へ向いた瞬間に理由を理解した。
「本当に倒したのか……」
「二体もか?」
「助かった……」
誰かがその場で泣き出した。
それを見た瞬間、一年Sクラスの生徒達は少し戸惑った。
今までの訓練ではなかった反応だったからだ。
勝っても教師に評価されるだけ。
負ければ減点されるだけ。
それが学校だった。
だが今は違う。
目の前にいる人々は、本気で喜んでいた。
アーマーベアが出現してからというもの、村人達は森へ入れなくなっていた。狩人も動けず、薪を取りに行くこともできない。被害者こそ出ていなかったが、放置すればいつ襲われてもおかしくない状況だったのだ。
だからこそ討伐の報告は村そのものを救ったに等しい。
「ありがとう!」
子供達が駆け寄ってくる。
ラグナが目を丸くした。
レオニスも少し困ったように頭を掻く。
フィオナは居心地が悪そうに視線を逸らしていた。
しかしその顔には、どこか満足そうな色も浮かんでいた。
レインは少し離れた場所からその光景を眺めていた。
戦闘内容だけ見れば反省点は多い。
アルドの言う通り、まだまだ未熟だろう。
それでも目の前の村人達はそんなことを知らない。
彼らが見ているのは結果だけだ。
脅威だった魔物が消えた。
安心して眠れる。
森へ入れる。
それだけで十分だった。
村長らしき老人が深々と頭を下げる。
「本当にありがとうございました」
その声には心からの感謝が込められていた。
一年Sクラスの生徒達は顔を見合わせる。
そして誰からともなく笑みがこぼれた。
査定順位も。
訓練の評価も。
強さの優劣も。
その瞬間だけはどうでもよかった。
自分達の戦いで誰かが喜んでいる。
その事実が、不思議なくらい嬉しかったのである。




