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英雄なのか?  作者: よろず
アルディア騎士学校
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59/172

別の評価


討伐したアーマーベアは解体して最低限の素材だけを回収し、残りは騎士団へ報告するため目印を残しておく。戦闘直後こそ緊張感が残っていたものの、森を抜ける頃には誰の顔にも疲労が浮かんでいた。アイリスの回復魔法で骨折や裂傷は治療されているが、失われた体力までは戻らない。ラグナなどは「腹が減った」と何度もぼやいていたし、フィオナは魔力を使い切ったせいで無言のまま歩いている。

そんな生徒達を先導するように歩きながら、アルドは不意に口を開いた。

「今回の戦闘だが、結果だけ見れば合格だ」

その言葉に何人かが顔を上げる。

「二体のアーマーベアを討伐し、村への被害も出なかった。任務そのものは成功だ」

そこまでは誰もが理解していた。

しかしアルドは続ける。

「だが戦い方は褒められたものではない」

疲れていた生徒達の表情が引き締まった。

「ラグナは受けすぎだ。レオニスは攻めすぎた。アイリスは前へ出すぎたし、セドリックは逆に慎重すぎる。フィオナの魔法は威力は十分だったが、戦場が変われば使えなくなる。シルヴィアも戦況把握は優秀だったが、指示が長い」

一人ずつ叱責するわけではない。

戦場全体を見た総括だった。

「お前達はそれぞれ優秀だ。だからこそ自分の得意分野に頼り過ぎる。戦場は自分の得意な状況だけで戦える場所じゃない」

森を吹き抜ける風の音だけが聞こえる。

アルドは振り返らないまま言葉を続けた。

「今回の相手はDランクだった。だから多少の無茶が通用した。だがCランク以上になるとそうはいかん。一つの判断ミスで死人が出る。騎士が覚えるべきなのは勝ち方ではない。生き残り方だ」

誰も反論しなかった。

実際に戦ったからこそ分かる。

アーマーベアは強かった。

レインが二体目を連れて来た時など、一歩間違えば全滅していても不思議ではない。

だからこそ全員が黙って聞いていた。

やがて森を抜け、村が見え始めた頃だった。

見張り台にいた村人がこちらへ気付く。

そして次の瞬間、大声が響いた。

「戻ったぞ!」

村が一気に騒がしくなった。

家々から人が飛び出してくる。

老人も、女性も、子供達もだ。

何事かと思った一年Sクラスだったが、村人達の視線がアーマーベアの素材へ向いた瞬間に理由を理解した。

「本当に倒したのか……」

「二体もか?」

「助かった……」

誰かがその場で泣き出した。

それを見た瞬間、一年Sクラスの生徒達は少し戸惑った。

今までの訓練ではなかった反応だったからだ。

勝っても教師に評価されるだけ。

負ければ減点されるだけ。

それが学校だった。

だが今は違う。

目の前にいる人々は、本気で喜んでいた。

アーマーベアが出現してからというもの、村人達は森へ入れなくなっていた。狩人も動けず、薪を取りに行くこともできない。被害者こそ出ていなかったが、放置すればいつ襲われてもおかしくない状況だったのだ。

だからこそ討伐の報告は村そのものを救ったに等しい。

「ありがとう!」

子供達が駆け寄ってくる。

ラグナが目を丸くした。

レオニスも少し困ったように頭を掻く。

フィオナは居心地が悪そうに視線を逸らしていた。

しかしその顔には、どこか満足そうな色も浮かんでいた。

レインは少し離れた場所からその光景を眺めていた。

戦闘内容だけ見れば反省点は多い。

アルドの言う通り、まだまだ未熟だろう。

それでも目の前の村人達はそんなことを知らない。

彼らが見ているのは結果だけだ。

脅威だった魔物が消えた。

安心して眠れる。

森へ入れる。

それだけで十分だった。

村長らしき老人が深々と頭を下げる。

「本当にありがとうございました」

その声には心からの感謝が込められていた。

一年Sクラスの生徒達は顔を見合わせる。

そして誰からともなく笑みがこぼれた。

査定順位も。

訓練の評価も。

強さの優劣も。

その瞬間だけはどうでもよかった。

自分達の戦いで誰かが喜んでいる。

その事実が、不思議なくらい嬉しかったのである。


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