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英雄なのか?  作者: よろず
アルディア騎士学校
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Sクラス初任務


翌朝、王都の空はまだ薄暗かった。

太陽が顔を出す前の冷たい空気の中、レイン達一年Sクラスは北門前へ集まっている。全員が訓練用ではなく実戦用の装備を身につけ、背には数日分の荷物を背負っていた。その姿だけ見れば学生というより騎士団の遠征隊に近い。

「馬車は使わないんですか?」

アイリスが不思議そうに尋ねると、アルドは当然だと言わんばかりに答えた。

「使わん」

その一言で終わりだった。

だが理由は全員理解している。

騎士団の任務では常に馬車が使えるとは限らない。道が整備されていない地域もあれば、森や山岳地帯へ入ることもある。補給が途絶えた状況で行軍することも珍しくない。

だからこそSクラスは歩く。

荷物も自分で運ぶ。

それが当たり前だった。

出発の合図と共に一行は王都を離れた。

最初の数時間は街道が続く。周囲には畑が広がり、農民達の姿も見えた。しかし北西へ進むにつれて景色は徐々に変化していく。耕作地は減り、代わりに森林が増えていった。

レインは歩きながら周囲を観察していた。

面白いのはSクラスの面々である。

出発してからまだ半日も経っていないというのに、それぞれの役割が自然に見え始めていた。

先頭を歩くのはラグナだった。

大柄な体格に見合うだけの体力があり、足取りは終始安定している。藪や倒木があれば真っ先に処理し、道を切り開く。まるで重装歩兵そのものだった。

その少し後ろではレオニスが全体を見ている。

誰が疲れているか。

隊列が乱れていないか。

進行速度は適切か。

特別な指示を出しているわけではない。それでも気付けば全員が彼の判断に従っていた。

人を率いる才能とはこういうものなのだろう。

シルヴィアは地図を片手に周辺地形を確認している。

時折立ち止まり、森や丘陵へ視線を向けて何かを考えていた。

「あの尾根沿いは見通しが良いわね」

「もし私が魔物なら?」

そう呟いている辺り、常に敵の視点で考えているらしい。

一方でセドリックは補給管理に集中していた。

水の消費量。

食料の残量。

休憩時間。

一見地味だが、行軍では極めて重要な役割である。

盗賊討伐演習でも感じたことだが、戦場は戦う前から始まっている。剣が強いだけでは部隊は動かない。

フィオナは周囲を見ながら疲労の溜まった者へ声を掛けていた。

怪我人が出れば真っ先に対応する立場だ。

そしてグレン。

彼は最も目立たなかった。

気付けば前にいる。

気付けば後ろにいる。

森の中へ消えたかと思えば戻ってくる。

だがその度に周辺情報が増えていた。

索敵能力。

おそらくこの中で最も優れている。

「なるほどな」

レインは少しだけ納得した。

強いだけならAクラスにもいる。

無論弱い訳では無い。実技苦手な者もAクラス上位者程度の強さを持っている。

だがSクラスは違う。特化しているのだ。

それぞれが騎士団一個部隊を構成するための歯車になっているのだ。

昼を過ぎた頃、一行は最初の休憩を取ることになった。

その時だった。

森の奥から戻ってきたグレンが短く告げる。

「見つけた」

全員の視線が集まる。

「魔物か?」

ラグナが尋ねる。

グレンは頷いた。

「痕跡だ」

休憩の空気が一瞬で消えた。

アルドが立ち上がる。

「案内しろ」

数分後。

森の奥へ進んだ一行は、その意味を理解した。

大木が一本倒れている。

いや、正確には倒された。

幹の中央には巨大な爪痕が刻まれている。

人間の腕ほどの深さだった。

ラグナがしゃがみ込む。

「大きいな」

「少なくとも熊系統ね」

シルヴィアが痕跡を観察しながら答える。

「爪の間隔から考えると全長三メートル以上」

「Dランクで間違いなさそうだ」

アルドも同意した。

周囲には他にも痕跡が残っている。

踏み潰された下草。

削られた樹皮。

折れた枝。

どれも人間サイズではない。

夜間奇襲訓練で相手にしたFランク魔物とは比較にならなかった。

あれが野犬だとすれば、こちらは大型肉食獣である。

危険度が違う。

存在そのものが違う。

シルヴィアは地図を取り出しながら言った。

「行動範囲が予想より広いわね」

「そうか?」

ラグナが尋ねる。

「ええ。もしこの痕跡が三日前のものなら、村の近くにも現れている計算になる」

その言葉にレオニスが考え込む。

「縄張りが移動している可能性か」

「あるいは餌不足」

二人の会話を聞きながらレインは少し感心していた。

普通なら強さばかりを見る。

だが彼らは違う。

まず行動原理を考える。

そこから敵を追う。

騎士団の指揮官候補らしい発想だった。

その後、一行は予定通り開拓村へ向かった。

到着したのは2日後、太陽は西へ傾き始めていた。

村の規模は大きくない。

百人も住んでいないだろう。

だが村人達の表情は明らかに暗かった。

理由はすぐに分かった、村の外れにある柵が破壊されていたのだ。

修理の跡はあるが完全には直っていない。魔物被害の痕跡だった。

村長から話を聞くと状況は予想以上だった。

家畜が襲われたのは三度。

負傷者が五人。

そして一週間前には森へ入った猟師が一人戻っていない。

誰も口にはしなかったが、生存は絶望的だった。

レオニスが村の地図を広げる。

シルヴィアが痕跡の位置を書き込み、セドリックが物資を確認する。

自然と全員が動き始めていた。

アルドは何も指示しない。

それでも機能している。

その様子を見ながらレインは思った。

確かに優秀だ。

少なくとも今まで見てきた一年生とは次元が違う。

だが同時に気になることもあった。

村人達の証言。

森で見つけた痕跡。

地図上の位置関係。

それらを頭の中で繋げた時、一つだけ違和感が残る。

その時だった。

見張りへ出ていたグレンが戻ってくる。

珍しく僅かに表情が険しかった。

「見つけた」

昼と同じ言葉だった。

だが今度は意味が違う。

グレンは森の方角を見ながら続ける。

「近い」

教室で聞いたDランク魔物という言葉が、初めて現実味を帯びた。

「村から一キロも離れていない」

その報告に、集まっていた全員の空気が一変した。


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