優秀だが
レオンに案内されながら歩く夜の校舎は静かだった。
昼間なら生徒達で賑わう廊下も今は人影が少ない。窓の外には夜の闇が広がり、一定間隔で設置された魔導灯だけが石造りの廊下を照らしている。
「緊張してるか?」
前を歩くレオンが振り返りもせずに尋ねた。
「少しは」
正直に答えると、レオンは小さく笑う。
「安心しろ。話を聞きたいだけだ」
「それは安心材料になりますか?」
「ならないな」
即答だった。
盗賊討伐演習で何度か話したことはあるが、こうして二人きりで歩くのは初めてである。気さくな先輩だとは思うものの、生徒会室へ呼び出されているという事実は変わらない。
やがて二人は中央棟最上階へ辿り着いた。
生徒会室。
レオンは軽く扉を叩く。
「連れてきました」
中から返事が返ってくる。
そのまま扉が開かれ、レインは室内へ足を踏み入れた。
長机を囲むように並ぶ十三人の生徒達。
二年Sクラス。
学園最上位の生徒達だった。
盗賊討伐演習で顔を合わせたクリスティーナやリリアの姿も見える。しかし初対面の者も多い。
誰もが只者ではない雰囲気を纏っていた。
その中で一人だけ露骨に不機嫌そうな青年がいる。
黒髪の男子生徒だった。
腕を組み、まるで値踏みするようにレインを見ている。
「レイン・クロードです」
軽く頭を下げると、正面に座っていたエドワードが穏やかに頷いた。
「急な呼び出しですまない」
「いえ」
「楽にしてくれ。ただ少し話がしたかっただけだ」
生徒会長からそう言われても安心はできない。
それでも促されるまま空席へ座る。
すると何故かリリアが当然のように隣へ移動してきた。
その瞬間、生徒会室の空気が少しだけ変わる。
特に黒髪の青年の視線が鋭くなった気がした。
そこから始まった質問は意外なほど普通だった。
盗賊討伐演習で何を考えていたのか。
夜間奇襲訓練ではどう動いたのか。
合同訓練で何を学んだのか。
将来どの騎士団を目指しているのか。
レインも一つずつ答えていく。
嘘は混ぜる。
だが全てが嘘ではない。
地方出身の平民、強くなりたい、誰かを守れる力が欲しい。
どれも表向きの自分としては自然な回答だった。
十分ほど話した頃には室内の空気も幾分柔らかくなっていた。
ヴィクトルが納得したように頷き、ノアも資料へ目を落としながら静かに言う。
「報告書と大きな差異はありませんね」
「優秀な生徒だな」
他のSクラス生徒達も同意する。
評価は高い。
しかし、それ以上ではない。
少なくとも大半のSクラスはそう考えていた。
そんな中で一人だけ様子がおかしい人物がいる。
リリアだった。
先ほどからずっと楽しそうなのである。
レインが何を話しても面白そうに頷き、ときには笑みまで浮かべている。
まるで珍しい玩具でも見つけた子供のようだった。
対照的に、黒髪の青年――アレスの機嫌は悪くなる一方である。
レインは内心で首を傾げた。
初対面のはずだった、少なくとも自分に心当たりはない。
やがて面談は終わる。
エドワードが席を立った。
「協力感謝する」
「いえ」
「今日はもう戻って構わない」
レインは立ち上がり、全員へ軽く頭を下げる。
そのまま生徒会室を出ようとした時だった。
「待て」
低い声が響く。
振り返る。
声の主はアレスだった。
室内の空気が変わる。
先ほどまで笑っていたレオンも何かを察したように黙り込み、クリスティーナは小さく額を押さえた。
アレスは真っ直ぐレインを見据える。
「正直に言おうには分からない。何故姫が君に興味を持っているのか理解できない」
「姫?」
思わず聞き返すと、レオンが横から小声で教えてくれた。
「リリアの姉御のことだ」
なるほどと思った。
同時に少しだけ納得もする。この人は重症だ。
「姫が間違えるはずはない」
アレスは真剣だった。
「だが私には君の特別さが見えない」
そこで一度言葉を切る。
「だから確かめる」
生徒会室の空気が張り詰めた。
アレスはゆっくり立ち上がる。
二年Sクラス第二位。
学園最強候補の一人。
その視線がレインへ向けられる。
「レイン・クロード」
次の言葉を予想できた者は、この場に何人もいなかった。
「君に決闘を申し込む」




