連行
査定発表前日の夜。
男子寮はいつも以上に賑やかだった。
盗賊討伐演習を終えてから数日。生徒達の関心はすでに次の査定へ移っている。廊下のあちこちから順位予想が聞こえ、食堂から戻る生徒達も皆その話題ばかりだった。
四〇七号室でも同じである。
「絶対上がってるって俺」
ベッドへ寝転がったロイが天井を見上げながら言った。
「盗賊討伐でも結構頑張ったしな。20位以内は固いだろ」
「自分で言うな」
ガレンが呆れたように返す。
「いや実際どうだと思う?」
「23位位くらいじゃないか」
「微妙だな!」
即座に叫ぶロイに部屋の空気が少し和む。
窓際ではエリオットが本を閉じた。
「ガレンは上がるだろうな」
「どうだろうな」
「どう見ても上がる」
ロイが言う。
夜間奇襲訓練でも盗賊討伐でもガレンは安定して結果を残していた。本人は謙遜しているが、少なくとも四人の中では最も順位を伸ばしていてもおかしくない。
「レインはどうだ?」
不意にロイが話を振った。
ベッドへ腰掛けていたレインは少し考える。
「さあ」
「絶対上Aクラスに上がってるだろ」
「そうか?」
「そうだろ」
ロイは即答した。
盗賊討伐では西側封鎖。
夜間奇襲訓練でも目立っていた。
少なくとも四〇七号室の誰もがレインのAクラス上昇を疑っていない。
もっとも本人だけは相変わらずだった。
そんな他愛のない会話を続けていた時だった。
廊下の方から妙なざわめきが聞こえてきた。
最初レイン達は誰も気にしなかった。
だが徐々に声が大きくなる。
何かあったらしい。
「ん?」
エリオットが首を傾げる。
「騒がしくないか?」
ガレンも扉へ視線を向けた。
確かに騒がしい。
しかも近付いてきている。
やがて。
「おい」
廊下から誰かの声が響いた。
「二年生だぞ」
「マジか?」
「なんであの人がここに?」
部屋の外が一気に騒がしくなる。
四人も顔を見合わせた。
その時だった。
コンコン。
扉が叩かれる。
「入るぞ」
聞き覚えのない声だった。
「あ」
思わず声が漏れた。
廊下には一人の男子生徒が立っていた。
整った顔立ち。
余裕を感じさせる笑み。
胸元には二年Sクラスの徽章。
周囲の一年生達が遠巻きに様子を窺っている。
「こんばんわ」
レインは気軽に手を上げた。
「レオン先輩……」
ガレンが小さく呟く。
その名前にロイとエリオットも立ち上がる。
盗賊討伐演習で同行した上級生の一人。
二年生Sクラスでもある有名人だった。
そんな人物が何故ここにいるのか。
しかも自分達の部屋の前に。
「レイン・クロードはいるか?」
レオンは笑顔のまま言った。
その瞬間。
廊下が静まり返った。
次の瞬間には爆発する。
「レイン?」
「今レインって言ったか?」
「Bクラス首席の?」
「なんだ?」
「何があった?」
一年生達の視線が一斉に四〇七号室へ集まった。
ロイは口を半開きにしてレインを見る。
エリオットも驚いている。
ガレンも事情が分からない顔だった。
当のレイン本人も同じだった。
「俺ですけど……」
レオンは笑う。
「探したぞ」
「何かありましたか?」
「生徒会室まで来てほしい」
その言葉で周囲が完全に固まった。
生徒会室。
一年生にとって縁のない場所だ。ましてやまた呼び出されるなど普通はあり得ない。
ロイが真っ先に反応した。
「お前何したんだ?」
「してない」
「本当に?」
「多分」
「多分って何だよ!」
だが誰もが気になっていた。
何故レインなのか。
何故生徒会なのか。
レオンはそんな反応を楽しむように肩を竦める。
「理由は言えない」
「ただ呼んで来いと言われただけだ」
余計に不安になる答えだった。
レインは小さくため息を吐く。
「拒否権は?」
「ないな」
レオンは爽やかに笑った。
「だと思いました」
レインは諦めたように立ち上がった。
すると廊下の生徒が一斉に道を空ける。
まるで犯罪者の護送でも見るような視線だった。
「帰ったら話聞かせろよ!」
ロイが叫ぶ。
「俺も知りたい」
ガレンが頷く。
「気を付けて」
エリオットまで真面目な顔で言った。
「生徒会に呼ばれただけなんだけどな……」
レインが苦笑する。
だがその言葉に納得する者は誰もいなかった。
そしてレインはレオンに連れられ、寮を後にする。
背後では未だに騒ぎが続いていた。
誰もが噂を口にし、様々な憶測を飛ばしている。
その中心にいる本人だけが、何故呼ばれたのか全く分かっていなかった。




