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英雄なのか?  作者: よろず
アルディア騎士学校
40/53

決着


森の各所で戦闘が始まっていた。

正面の廃村ではAクラスが一気に攻勢へ出ている。

「前へ!」

カイルの号令が飛んだ。

もともと廃村に残されていた盗賊は十数人。拠点を守るというより、仲間達が逃げる時間を稼ぐために置かれた人員だった。しかし、それでも戦い慣れた相手であることに変わりはない。剣戟が交錯し、朝靄の中で怒号が響く。

それでも戦況は徐々にAクラスへ傾いていった。

人数も違うし統率が違う。

生徒達は隊列を維持しながら戦い、倒れた仲間が出れば即座に後ろが埋める。個々の技量だけなら盗賊側にも経験者はいたが、集団戦では勝負にならなかった。

やがて盗賊達は崩れ始める。

「逃げたぞ!」

誰かが叫ぶ。

数人の盗賊が森へ飛び込んだ。

だがカイルは追撃命令を出さない。

「深追いするな! 拘束班を残せ! 残りは東と南へ!」

それが昨夜決めた作戦だった。

Aクラスは廃村を制圧すると同時に戦力を再編し、周辺戦場への援軍として動き始める。

東側ではBクラスが逃走者を追い詰めていた。

アイザックは最初から正面衝突を避けている。

風魔法で落ち葉や砂塵を巻き上げ、盗賊達の視界を奪う。その間に生徒達が迂回し、少しずつ包囲網を狭めていった。

盗賊達は何度も突破を試みた。

だが、その度に別の場所から生徒が現れる。

逃げた先に待ち伏せがいる。

迂回した先にも待ち伏せがいる。

やがて焦り始めた盗賊達は連携を失い、一人、また一人と拘束されていった。

南側の村道ではCクラスが防衛線を維持していた。

住民がいる方向へは絶対に通さない。

その一点だけに集中した戦いだった。

盗賊達もそれを理解していたのだろう。何度か突破を試みたが、生徒達は隊列を崩さない。前衛が受け止め、後衛が支援し、押し返す。

十分ほど後には盗賊達も突破を諦め始めていた。

戦況は着実に包囲側へ傾いていく。


だが、その頃には本命が動いていた。

盗賊頭である。

男は最初から西へ向かっていた。

正面は囮。

東も南もいずれ封鎖される。

だから最初から逃げるなら西しかない。

元傭兵としての経験がそう告げていた。

しかし男は不用意に飛び出さない。森の中で足を止めると周囲を見回した。

静かすぎる。

だからこそ怪しい。

「……いるな」

小さく呟く。

西だけが無防備なはずがない。

男はすぐに判断した。

「三人前へ出ろ」

命じられた盗賊達が戸惑う。

「頭?」

「いいから行け」

三人の盗賊が獣道へ進む。

そして次の瞬間だった。

左右の茂みから複数の人影が飛び出す。

伏兵。

アルベルト達だった。

三人の盗賊は慌てて武器を抜いたが遅い。包囲され、数合も打ち合わないうちに地面へ転がされる。

その光景を見た盗賊頭は小さく笑った。

「やはりか」

勘は当たっていた。

西にも待ち伏せがいる。

しかも指揮官は相当に頭が回る。

男は剣を抜いた。

背後の部下達も武器を構える。

一方のアルベルトも前へ出た。

「来ると思っていた」

「光栄だな」

盗賊頭は肩を竦める。

次の瞬間、双方が同時に動いた。

西の森へ鋼の音が響く。

盗賊達は左右へ散開し、生徒達へ斬り掛かった。だが一年生達も慌てない。事前に決められていた通り二人一組で敵へ当たり、数の利を活かして押し込んでいく。

アルベルトは盗賊頭と正面から激突した。

剣がぶつかる。

重い。

盗賊頭の剣は実戦を潜り抜けてきた者の重さがあった。

だがアルベルトも引かない。

力比べではなく技で崩しにいく。受け流し、距離を詰め、再び離れる。

互いに決定打が出ない。

その一方で周囲の戦況は徐々に生徒達へ傾いていた。

盗賊の一人が包囲を抜ける。

真っ直ぐ西へ走った。

その先に立っていたのはレインだった。

盗賊は迷わず剣を振るう。

だが次の瞬間には武器が宙を舞っていた。

何が起きたのか理解する間もなく手首を切られ、体勢を崩される。そのまま地面へ倒れ込んだ男を近くの生徒達が拘束した。

視線はアルベルトと盗賊頭へ向けられていた。

盗賊頭もまた気付いていた。

目の前のアルベルトも厄介だが、本当に警戒すべき相手は別にいる。

だからこそ動けない。

突破しようとすれば、あの少年がいる。

戦いが続くにつれ盗賊達の数は減っていった。

一人拘束され。

また一人が倒される。

気付けば盗賊頭の周囲に残っているのは数人だけだった。

そして――。

盗賊の頭は動けなくった。

正面にはアルベルト。逃げ道側にはレイン。背後には拘束された部下達と、まだ武器を握る数人の盗賊。西の森の戦闘は一見すると膠着しているように見えたが、実際には違う。動けなくなっているのは盗賊頭の方だった。

突破口がない。

それでも頭は周囲へ視線を走らせる。正面突破は不可能。レインの横を抜けるのも難しい。ならば別の道はないか。森に慣れた者なら見つけられる逃走経路が残されていないか。

元傭兵らしく最後まで冷静だった。

だが、その耳に届く戦場の音は少しずつ変わり始めていた。

先ほどまで廃村方面から響いていた怒号や剣戟の音が減っている。東側の戦闘音も同じだった。南側から聞こえていた魔法の炸裂音も途切れ始めている。

盗賊頭は僅かに眉をひそめた。

勝っている側の音ではない、押し潰される側の音だ。

その時だった。

木々の奥から複数の足音が近付いてくる。

アルベルトが視線だけを向けた。

森の中へ飛び込んできたのは三人の生徒だった。

それぞれ別方向から駆けてきている。

そして、ほとんど同時に報告が飛んだ。

「Aクラスより報告! 廃村制圧! 盗賊の拘束を開始しています!」

「Bクラスより報告! 東側封鎖成功! 逃走者も確保しました!」

「Cクラスより報告! 南側の村道制圧! 突破者はいません!」

三つの報告が森に重なる。

その瞬間だった。

盗賊頭の表情から最後の希望が消えた。

逃げ道は最初から存在していなかった。

いや。

正確には、自分達が逃げようとする全ての場所は読まれていた。

盗賊頭はゆっくりと息を吐く。

その様子を見ていたレインは剣を下ろさない。

こういう時こそ油断してはいけない。

追い詰められた相手ほど最後に何をするか分からない。

そこへさらに森の奥から集団が現れた。

Dクラスの予備隊だった。

十数名の生徒達が隊列を保ったまま到着し、西側の斜面と後方を塞ぐ。

「Dクラス到着!」

「包囲完了しました!」

その報告で戦場は完全に終わった。

盗賊達の顔から血の気が引く。

若い盗賊の一人が叫んだ。

「頭! まだやれます!」

その声には焦りが混じっていた。

「学生相手だ! 押し切れば――」

「黙れ」

低い声だった。

だが若い盗賊はそれだけで口を閉ざした。盗賊頭は視線を前へ向けたまま続ける。

「見ろ」

部下達は周囲を見る。囲まれてる。

そして目の前にはレイン。

「終わりだ」

誰も反論できなかった。

盗賊頭は剣を握ったまま苦笑する。

「お前ら学生の演習か何かか?」

アルベルトは答える。

「演習だ」

「そうかよ」

盗賊頭は肩を竦めた。

「なら十分だな」

そう言うと、男はゆっくりと剣を地面へ置いた。

乾いた音が森に響く。

「降参だ」

その一言で戦場の空気が変わった。

残っていた盗賊達も次々と武器を落としていく。

武器が地面へ落ちる音が続いた。

アルベルトは即座に指示を飛ばす。

「拘束を開始しろ! 武器から離せ! 周囲の警戒も続けろ!」

生徒達が動き出す。勝利の余韻に浸る者はいない。

まだ作戦は終わっていないからだ。

レインも周囲へ視線を巡らせる。

伏せている者はいないか、逃げ隠れした盗賊はいないか。

一つずつ確認していく。

そんなレインへ、拘束される盗賊頭が視線を向けた。

「お前が読んだのか」

突然の問いだった。

レインは肩を竦める。

「皆で考えた作戦だよ」

盗賊頭は小さく微笑む

「そういうことにしておくか」

朝日が木々の隙間から差し込み長かった討伐戦は終わった。

盗賊達は全員拘束され、一年生達の初めての実務演習は成功に終わる。

だが、それは同時に新たな始まりでもあった。

今回の戦いで、多くの生徒が自分達の力を知った。


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