突入
夜明け前の森は静まり返っていた。
東の空がわずかに白み始めているものの、木々の下にはまだ夜の気配が色濃く残り、湿った土の匂いと冷たい空気が肌を撫でる。その暗い森の中を一年生達は慎重に進み、それぞれ昨夜決められた配置へ向かっていた。
もはや盗賊を探しているわけではない。
今やるべきことは一つ。
見つけた敵を、一人も逃がさないことだった。
正面へ向かったAクラスは廃村へ続く街道を押さえ、作戦開始と同時に最も強い圧力を掛ける。Bクラスは東側の森で獣道を封鎖し、南側にはCクラスが展開して村へ続く道を守る。そしてDクラスは後方で待機し、戦況に応じて投入される機動戦力として控えていた。
一方、レイン達が潜むのは西側の深い森だった。
人数は少ない。
アルベルトを中心に各クラスから選ばれた数名だけで構成された伏兵である。ここは敵を正面から迎え撃つ場所ではない。ただ静かに息を潜め、その時を待つ場所だった。
森は静かだった。
風が枝葉を揺らす音だけが耳に届く。
やがて、遠くから足音が近付いてきた。
姿を現したのは伝令役の生徒だった。
肩で息をしながら駆け寄ると、声を潜めて報告する。
「見張り場が空です」
その一言だけで場の空気が張り詰めた。
昨日まで人影があった場所に誰もいない。
アルベルトが森の奥へ視線を向ける。
「先手を打たれたか」
小さく漏らした言葉に、レインは静かに首を振った。
「違うと思う」
視線が集まる。
「見つかったから逃げるんじゃない。見つかりそうだから逃げるんだ。たぶん昨日から、そのつもりだった」
普通の盗賊なら拠点へ敵が迫ってから動く。
だが、相手が元傭兵なら話は別だ。
危険を察した時点で、生き残るための行動を始める。
アルベルトは小さく笑った。
「なるほど。厄介な相手だ」
その表情には焦りよりも確信があった。
敵がそう考える人間なら、必ずこちらの思惑に乗る。
その時だった。
廃村の方角から鈍い衝撃音が森へ響く。
木戸が破られる音。
続いて怒号が重なり、金属がぶつかり合う甲高い音が朝の静寂を切り裂いた。
Aクラスが動いた。
さらに間を置かず、東、南からも戦闘の気配が伝わってくる。
包囲網は予定通り閉じ始めていた。
レインは何も言わず、西の森を見つめ続ける。
残された道は、もう一つしかない。




