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英雄なのか?  作者: よろず
アルディア騎士学校
39/53


夜明け前の森は静まり返っていた。

東の空がわずかに白み始めているものの、木々の下にはまだ夜の気配が色濃く残り、湿った土の匂いと冷たい空気が肌へまとわりついてくる。その暗い森の中を一年生達は慎重に進み、それぞれ昨夜決められた配置へ向かっていた。

もはや盗賊を探しているわけではない。

今やるべきことは一つだけであり、見つけた敵を逃がさないことだった。

正面へ向かったAクラスは廃村へ続く街道を押さえ、作戦開始と同時に最も強い圧力を掛ける役目を担っている。一方でBクラスは東側の森へ展開し、アイザックを中心に獣道を封鎖して逃走の流れを止める。南側へ向かったCクラスは村へ続く道を守り、万一にも盗賊を住民のいる場所へ近付けないための壁となり、Dクラスはさらに後方で待機しながら、どこかに綻びが生じた瞬間に投入される機動戦力として配置されていた。

そしてレイン達がいるのは西側だった。

人数は少ない。

アルベルトを中心に各クラスから選ばれた数名だけであり、戦力だけを見れば正面へ配置されたAクラスとは比較にならない。しかしそれで構わなかった。ここは敵を正面から迎え撃つ戦場ではなく、奇襲をし盗賊を無力化する場所だ。

昨夜の会議で決まった作戦は単純だった。

正面から押され、東と南を塞がれれば、盗賊頭は必ず最も生存率の高い道を探す。そして相手が元傭兵なら、その判断はなおさら早い。勝てない戦いに固執せず、生き残るために動く人間だからこそ、こちらが用意した逃げ道へ誘導できる。

だからレイン達は待っていた。

やがて森の奥から人影が駆けてくる。

伝令だった。

全力で走ってきたのだろう。肩で息をしながらも声だけは抑えられており、その表情には緊張が浮かんでいる。

「見張り場が空です」

短い報告だった。

だが、その一言だけで伏兵達の表情が変わる。

昨日まで人の気配があった場所に誰もいない。

その意味は単純だった

盗賊達は待っていない。すでに動き始めている。

アルベルトが険しい顔で森の奥を見ると、小さく息を吐きながら「先手を打たれたか」と呟いたが、レインは首を横に振った。

「違うと思う」

その声に周囲の視線が集まる。

「見つかったから逃げるんじゃない。見つかりそうだから逃げるんだ。たぶん昨日からそのつもりだった」

普通の盗賊なら拠点へ敵が来てから慌てる。

だが元傭兵なら違う。

危険が近付いたと判断した時点で勝ち目がないと分かれば、荷をまとめ生き残る準備を始める。

戦うためではない。

生き延びるために。

だからこそ、厄介なのだ。

アルベルトもそれを理解したらしく苦笑した。

「なるほどな。確かに面倒な相手だ」

そう言いながらも、その目にはむしろ確信が宿っていた。

敵がそう考える人間なら、西へ来る。

こちらが待っている場所へ必ず来る。

そして、その予想を裏付けるように、しばらくして廃村の方角から鈍い衝撃音が響いた。

木戸が破られる音だった。

続いて怒号が重なり、剣戟の響きが朝の森へ広がっていく。

Aクラスが動いたのである。

その音は遠い。

だが十分だった。

包囲網は閉じ始めている。

東でも戦いが始まったのか、風に乗って別の怒号が聞こえ、さらに少し遅れて南側からも戦闘音が届く。予定通り各戦場が動き出している証拠であり、それは同時に盗賊達の逃げ道が一つずつ消えていることを意味していた。

だからレインは静かに森の奥を見つめる。

東には行けない。

南にも行けない。

正面はAクラスが押している。

ならば残るのは一つだけだった。


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