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英雄なのか?  作者: よろず
アルディア騎士学校
37/52

作戦会議


盗賊の拠点を発見した一行が集合地点へ戻った頃には、空はすっかり夕焼け色に染まっていた。

拠点発見の報告はすぐに全体へ共有され、その日の捜索は終了となる。村の広場には各クラスの生徒達が集まり、あちこちで興奮した声が上がっていた。これまで噂や痕跡だけだった盗賊が、ついに実在する脅威として姿を現したのだ。

そんな中、村の集会所では別の会議が始まろうとしていた。

集められたのは各クラスの隊長、副隊長だけではない。戦術学や地理学の成績上位者、集団訓練で指揮能力を評価されている生徒達も呼ばれている。討伐を成功させるには剣の腕だけでは足りない。敵の動きを読み、味方を動かし、戦場全体を見渡せる人材が必要だった。

室内の中央には大きな机が置かれ、その上には周辺一帯の地図が広げられている。拠点の位置、見張り場、発見された焚き火跡、街道、獣道。今日一日で集められた情報が次々と書き込まれていた。

少し離れた壁際には二年生達の姿もある。

三人とも腕を組み、あるいは椅子へ腰掛けながら会議を眺めているだけだった。助言も口出しもしない。今回の主役は一年生達だ。

「まずは情報の整理からだな」

そう口を開いたのはアルベルトだった。

元Bクラス首席。

現在はAクラスへ昇格しているが、この場では誰も違和感を抱かない。むしろ彼が中心に立つことを自然に受け入れていた。

アルベルトは地図へ視線を落としながら話を進める。

「盗賊は推定三十名前後。拠点は廃村跡。周辺には見張り場があり、街道を監視していた形跡もある」

短く整理された言葉だったが、その内容だけで敵が単なる野盗集団ではないことが伝わってくる。

「三十人程度なら戦力差は十分だろう」

Dクラスの生徒が口を開いた。

「夜明け前に奇襲を仕掛ければ終わる」

何人かが頷く。

一年生だけでも百人以上いる。純粋な戦力差だけ見れば圧倒的だった。

「俺もそう思う」

別の生徒も続ける。

「見つかった以上、早めに叩くべきだ」

会議はそのまま奇襲案へ傾きかけていた。

だが、その時だった。

「妙だな」

アルベルトがぽつりと呟いた。

自然と室内が静かになる。

彼は地図を見たまま続けた。

「警戒心の強い集団にしては、発見までが早すぎる」

数人が眉をひそめる。

アルベルトは指先で地図をなぞった。

「見張り場がいくつかある」

「目印も使っている」

「轍は隠蔽されていた」

一つ一つを確認するように言葉を並べる。

「少なくとも無能な集団じゃない」

その評価に反論する者はいなかった。

実際、一行が見つけた痕跡はどれも組織的だった。行き当たりばったりの盗賊なら、あそこまで周囲へ気を配らない。

そこで今度は軍略組の一人が口を開く。

「元兵士かもしれないな」

「傭兵崩れの可能性もある」

意見が飛び交い始める。

ただの盗賊討伐だと思っていた空気が少しずつ変わっていく。

その時だった。

それまで黙っていたレインが口を開いた。

「発見までが順調すぎる」

全員の視線が集まる。

レインは特に気負う様子もなく地図を見た。

室内が静まり返る。

言われてみればその通りだった。

警戒心の強い集団なら、もっと隠せたはずだ。

「見つかった後を考えている可能性がある。今まで見つかりそうになったらその場を即時放棄して逃げてるね。森に逃げたら見つかりにくい、間違えなく逃走路をいくつか用意してるだろうね」

その一言で空気が変わった。

軍略組の生徒達も考え込む。

逃走路。

予備拠点。

撤退計画。

もし盗賊頭が元兵士なら、その程度の準備をしていても不思議ではない。

アルベルトも小さく頷いた。

「僕も同意見だ」

そして地図の南側を指差す。

「負けると判断したらここへ逃げる」

さらに別の方向を示す。

「こちらも候補だな」

気付けば会議の内容は討伐方法ではなく、敵指揮官の思考を読む方向へ変わっていた。

そこでレインが再び口を開く。

「まず勝利条件を決めた方がいい」

その言葉に全員が耳を傾ける。

「盗賊を倒すことか」

「盗賊頭を捕らえることか」

「拠点を制圧することか」

レインは静かに言った。

「違う」

そして地図の中央を指で叩く。

「逃がさないことだ」

その瞬間だった。

会議の流れが変わる。

討伐ではなく包囲。

制圧ではなく封鎖。

何人もの生徒が地図へ身を乗り出した。

「なら南を塞ぐ必要がある」

「東の森にも人を置くべきだ」

「予備戦力も欲しいな」

「見張りを捕らえる部隊も必要か」

議論は一気に活発になった。

今まで以上に。

戦場を想定した話し合いになっていく。

アルベルトはそんな様子を眺めながら、ほんの僅かに口元を緩めた。

夜間奇襲訓練、そして今回の作戦会議。

やはりレインは面白い。

この男は戦場で価値を持つ人材だ。

少なくともアルベルトはそう考えていた。

その頃、壁際では二年生達が相変わらず黙ったまま会議を見守っている。

最後まで一言も口を出さない。

だがクリスティーナだけは静かに頷いていた。

一年生だけでここまで辿り着いた。

それだけでも十分に評価する価値はある。

討伐は明日。

だが彼女達が見ている限り、この会議は決して無駄ではなかった。


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