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英雄なのか?  作者: よろず
アルディア騎士学校
36/50

拠点発見


翌朝。

まだ朝靄が森の奥に残る時間から、八人は集合地点を出発していた。

各クラスの生徒達は予定通り別方向の捜索へ向かっている。

北側を調べるのは隊長と副隊長だけ。

昨日の情報共有で最も可能性が高いと判断された場所だった。

先頭を歩くのはカイルだった。

その後ろにレイン、アイザックが続き、他の者達も一定の距離を保ちながら森の中を進んでいく。

会話は少ない。

全員が周囲へ意識を向けていた。

昨日の段階で盗賊が近くにいる可能性は高まっている。

問題は見つけられるかどうかだった。

森へ入って一時間ほど経った頃、最初に足を止めたのはレインだった。

「ここだな」

誰もが視線を向ける。

そこは昨日発見した焚き火跡だった。

雨風に晒された様子はなく、やはり新しい。

周囲には踏み固められた土も残っている。

カイルはしゃがみ込み、地面へ視線を落とした。

「昨日は時間がなかったが……」

そう呟きながら周囲を見回す。

そして数秒後。

「これを見ろ」

近くの木を指差した。

全員が集まる。

木の幹には細い傷が付いていた。

自然にできたものには見えない。

誰かが刃物で刻んだような跡だった。

「目印か」

アイザックが呟く。

カイルは頷いた。

「その可能性が高い」

さらに周囲を調べる。

すると同じような傷が別の木にも見つかった。

一本ではない。

一定方向へ続いている。

「追うぞ」

短い言葉だった。

だが誰も反対しない。

八人は目印を辿り始めた。

森は徐々に深くなっていく。

人が普段入るような場所ではない。

それでも傷は続いていた。

まるで誰かを導く道標のように。

やがて先頭を歩いていたDクラス副隊長リリアが手を上げる。

全員が足を止めた。

前方には小さな高台があった。

慎重に近付く。

そして頂上へ辿り着いた瞬間、その意味を理解した。

「なるほどな」

高台からは街道が見えていた。

距離はある。

だが荷馬車が通れば十分確認できる。

「ここから街道を監視していたのか」

アイザックが周囲を確認する。

高台には人が長時間いた形跡が残っていた。

座った跡。

踏み固められた土。

そして。

「保存食だ」

カイルが拾い上げた布袋を見せる。

中身は空だった。

だが比較的新しい。

盗賊達が使っていた可能性は高かった。

「拠点は近いな」

誰かが言った。

その時だった。

レインが地面へ視線を落とす。

「待て」

全員が振り返る。

レインは高台の反対側を指差した。

そこには薄くではあるが轍が残っていた。

車輪の跡だ。

森の奥へ続いている。

「荷車か」

「多分な」

三十人規模の盗賊団。

それだけの人数がいれば食料が必要になる。

武器もいる。

奪った荷も運ばなければならない。

人の手だけでは限界がある。

だから荷車を使う。

その発想にカイルも頷いた。

「足跡よりこっちだな」

痕跡を辿る。

今度は全員の足取りが速かった。

見張り場。

保存食。

荷車跡。

情報が一つずつ繋がっている。

そして何より、この轍は隠そうとしている形跡があった。

意図的に落ち葉で覆われている。

だが完全ではない。

見つけた以上、追うことはできた。

さらに三十分ほど進んだ頃だった。

先頭のカイルが突然しゃがみ込む。

右手を後ろへ出した。

停止の合図。

全員が即座に身を低くする。

誰も声を出さない。

カイルはゆっくり前方を指差した。

木々の隙間。

その先。

森が途切れている。

自然な空間ではない。

人の手が入っている。

レインは慎重に位置を変え、視界を確保した。

そして目を細める。

「あれは……」

森の奥。

木々に囲まれた開けた空間。

そこには朽ちかけた建物が並んでいた。

かつて村だったのだろう。

崩れた家屋。

倒れた柵。

放棄されて長い年月が経っている。

だが今は違った。

煙が上がっている。

洗濯物が干されている。

武器を持った男達が歩いている。

入口付近には見張りもいた。

人数は多い。

二十人。

いや三十人近い。

八人の視線が自然と交わる。

誰も言葉を発しない。

必要なかった。

全員が理解している。

見つけた。

盗賊の拠点を。


数時間後

カイルが静かに口を開く。

「確認は終わりだ」

誰も反論しない。

「戻るぞ」

今ここで戦う必要はない。

必要なのは情報を持ち帰ること。

拠点の位置。

人数。

見張り。

地形。

全てを持ち帰り、確実に仕留める。

八人は最後にもう一度だけ盗賊達の拠点を見つめると、音を立てないよう慎重にその場を離れた。

知らぬまま談笑を続ける盗賊達の姿が、木々の向こうへ消えていく。

討伐の日は近い。

だが本当の戦いは、まだ始まっていなかった。


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