点と点
夕陽が森の向こうへ沈み始める頃、各クラスの捜索隊は次々と集合地点へ戻ってきていた。
野営地では焚き火の準備が始まり、薪を運ぶ者、鍋へ水を汲む者、周囲の警戒に当たる者と、それぞれが手際よく動き始めている。しかし各クラスの隊長と副隊長だけは休むことなく中央へ集まり、一枚の地図を囲んでいた。
輪になった八人を見回し、最初に口を開いたのはAクラス隊長のカイルだった。
「まずは情報を整理しよう」
誰も異論はない。
今日一日で集めた情報は決して少なくない。だが、それぞれが別々に抱えていては意味がない。小さな情報でも繋ぎ合わせれば、盗賊の居場所へ辿り着けるかもしれないのだ。
「Dクラスから報告する」
口を開いた隊長が、地図の南側へ小石を置く。
「南街道沿いで襲撃跡を発見した。荷馬車が止まった跡と、積み荷を運び出した形跡が残っていた。時間は経っていたが、人為的なものなのは間違いない」
「逃走方向は分かるか?」
アイザックが尋ねる。
「断定はできない。ただ、荷を運び出した跡は北寄りへ続いていた」
地図の南側に一つ目の印が置かれる。
続いてCクラスの隊長が前へ出た。
「俺達は東側の農村を回った」
指先が地図の東側をなぞる。
「最近、村人が森へ近付かなくなったらしい」
「理由は?」
「人影だ」
その一言で、その場の空気が少しだけ引き締まる。
「夕方や夜明け前になると、北側の森で人影を見たって証言が複数あった」
「盗賊とは限らないな」
誰かが呟く。
「もちろん断定はできない。ただ、証言した村人は一人じゃない」
東側にも印が加わった。
「次はAクラスだ」
カイルは地図の西側を指差す。
「丘陵地帯で複数人分の足跡を見つけた。猟師や木こりが普段使う道じゃない」
「向きは?」
「北だ」
短い返答だった。
だが、それだけで十分だった。
南の襲撃跡。
東の目撃情報。
西の足跡。
それぞれ別の場所で見つかった情報なのに、どれも北を指している。
自然と全員の視線がBクラスへ向いた。
レインは地図へ歩み寄り、丘の北側を指差す。
「北の森で焚き火跡を発見しました」
その一言で、場の空気が変わる。
「場所はそこか」
カイルが身を乗り出す。
レインは頷き、そのまま続けた。
「焚き火だけではありません。周囲には複数人が滞在した跡も残っていました。折れた枝や踏み固められた地面も確認した」
「新しかったか?」
「数日以内だと思う」
アイザックも言葉を継ぐ。
「村人からも話を聞いた。夜になると、この辺りで火が見えることがあるそうだ」
再び静寂が訪れる。
誰も急いで口を開こうとはしなかった。
地図の上には四つの印。
南の襲撃跡。
東の目撃情報。
西の足跡。
そして北の焚き火跡。
それらを線で結ぶ必要はなかった。
全員の頭の中で、すでに一つの形が浮かび始めていた。
「……北か」
誰かが小さく呟く。
否定する者はいない。
まだ盗賊の拠点を見つけたわけではない。だが、偶然にしては情報が集まりすぎていた。
しばらく地図を見つめていたカイルが静かに言う。
「明日は捜索範囲を絞る」
その言葉に全員が顔を上げた。
「盗賊は魔物じゃない。人数が多ければ、その分だけ見つかる危険も増える」
「見張りがいる可能性も高いな」
Dクラス隊長が頷く。
そこでレインが地図の北側へ指を置いた。
「丘周辺と北の森、それから街道へ抜ける獣道。この辺りを重点的に調べましょう」
「誰が行く?」
副隊長の一人が尋ねる。
カイルは迷わず答えた。
「各クラスの隊長と副隊長だけで動く」
八人なら機動力も高く、何かあっても即座に判断できる。
誰も反対しなかった。
「発見した場合は?」
確認するように問い掛けられる。
レインは即座に答えた。
「確認だけです」
全員の視線が集まる。
「踏み込まない。捕まえようともしない。位置を把握して戻る。それが最優先」
「異論なし」
カイルが頷く。
今必要なのは武功ではない。
確実な情報だった。
地図の上には、いつの間にか北側へ印が集まっていた。
誰も口にはしない。
それでも八人の視線は、自然と同じ一点へ向いている。
少し離れた場所では、リリア達三人がその様子を静かに見守っていた。
「闇雲に探していた午前中とは別人ですね」
クリスティーナが穏やかに呟く。
リリアも小さく微笑んだ。
「ちゃんと情報を繋げられてる。あとは、その答え合わせだけかな」
レオンは腕を組みながら地図へ目を向ける。
「明日が本番だな」
三人はそれ以上口を挟まなかった。
この演習の主役は、あくまでも一年生たちなのだから。




