順調
リリア達はレインとアイザックの前で足を止める。
「順調そうだね」
リリアはいつも通りの調子だった。
「今のところはですね」
レインが答える。
「到着は予定通りですか?」
クリスティーナが尋ねる。
「このままなら明日の昼前です」
アイザックが答えた。
「分かりました」
会話はそれだけだった。
レオンも一度頷いただけで何も言わない。
本当に確認に来ただけらしい。
拍子抜けしたような空気が流れる。
「終わりか?」
ロイが小声で呟いた。
「終わりだな」
ガレンも頷く。
もっと何か言われると思っていたのだろう。だが二年生達はそのまま元の位置へ戻っていった。
レインは三人の背中を見送りながら小さく息を吐く。
本当に一年生へ任せるつもりらしい。
実務演習の説明を聞いた時は半信半疑だったが、ここまで徹底されると嫌でも分かる。失敗も成功も一年生自身のものということだ。
昼休憩を終えると行軍は再開された。
午後になると街道を行き交う人影も減り始める。王都近郊の整備された道は続いているが、周囲の景色は少しずつ変わっていた。畑が減り、森が増え、人の気配も薄くなっていく。
最初は緊張していた生徒達も、歩き続けるうちに別の敵と戦うことになった。
疲労である。
「足が重い……」
ロイがぼやく。
「まだ一日目だぞ」
ガレンが呆れる。
「だからだよ。二日目が怖い」
その言葉に何人かが苦笑した。
だが実際、長距離行軍に慣れている者は少ない。王立騎士学校で鍛えられているとはいえ、荷物を背負って何時間も歩き続けるのは話が別だった。
その日の夕方、一行は小さな宿場町近くの空き地で野営を行った。
焚き火を囲みながら簡単な食事を取る。騒ぐ者もいたが、いつもよりは静かだった。明日には目的地へ到着する。誰もがそれを意識している。
夜は何事もなく過ぎ、翌朝も早くから出発した。
そして昼前。
先頭を歩いていたレインは足を止める。
目の前の丘を越えた先に村が見えた。
「着いたか」
アイザックが隣へ並ぶ。
規模は大きくない。
三十軒ほどの家屋と畑。それを囲むように森が広がっている。どこにでもある地方の村だった。
「盗賊がいるようには見えないな」
ワルが言う。
「見えたら苦労しないだろ」
レインは苦笑した。
全員が集まったところで地図を広げる。
「ここからは分かれて動く」
生徒達の視線が集まった。
「四十人で村へ入れば目立つ。聞き込みもやりにくいし、向こうに警戒される可能性もある。だから五人ずつに分かれる」
反対する者はいない。
むしろ当然だと思う者の方が多かった。
「村の中、街道沿い、畑周辺、宿場方面。それぞれ担当を決める」
レインは地図へ指を走らせる。
そして最後に森を指した。
「森林区だけは戦闘能力が高い者を中心に回る。魔物が出る可能性があるからな」
それもまた当然の判断だった。
森へ入る組にはレイン、アイザック、ワルを含む上位陣が入る。ロイ達は村で聞き込みを担当することになる。
やがて全ての分担が決まる。
レインは最後に全員を見渡した。
「夕方までにここへ戻れ。何かあれば無理はするな」
短い指示だった。
生徒達はそれぞれの担当区域へ向かって歩き始める。村へ向かう者、街道を下る者、畑へ向かう者。そしてレイン達は森へ向かった。
その様子を少し離れた場所からリリア達が見ている。
だが三人は何も言わない。
ただ静かに一年生達の背中を見送っていた。
森へ足を踏み入れると、村の喧騒はすぐに消えた。
木々のざわめき。
鳥の鳴き声。
湿った土の匂い。
盗賊の姿はまだない。
だがレインは自然と周囲へ意識を向ける。
本当の演習は、ここから始まるのだから。




