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英雄なのか?  作者: よろず
アルディア騎士学校
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出発

三日後の早朝、王都北門にはBクラスの生徒達が集まっていた。


もっとも、その姿は普段の学生達とは大きく異なっている。制服を着ている者は一人もおらず、それぞれが実務用の装備へ身を包んでいた。革鎧や胸当てを装着した者、旅装束の上から防具を重ねた者、杖や弓を背負った者。装備は統一されていないが、それぞれが自分の役割に合わせて選んだものだ。王立騎士学校の校章も外されている。盗賊討伐へ向かう以上、自ら学生だと周囲へ知らせる必要はなかった。


四十人近い集団はどうしても目立つ。それでも制服姿で街道を進むよりは遥かにましだった。


「全員揃っているな」


バルトが生徒達を見渡す。その表情は普段と変わらない。しかし声には僅かな厳しさが混じっていた。


「これから先は学校の外だ。何が起きても不思議ではない。盗賊を甘く見るな」


短い言葉だった。


だが生徒達は誰一人として軽く受け取らない。三日前の説明会から今日まで、盗賊討伐という現実について考え続けてきた。相手は魔物ではない。夜間奇襲訓練のように教師達が用意した状況でもない。本物の盗賊であり、本物の実戦だ。


やがて北門の向こうから三人の人影が姿を現す。


二年Sクラス。


今回、Bクラスへ同行する上級生達だった。


「改めて自己紹介するね」


先頭を歩く小柄な少女が気軽に手を振る。


「リリア・フォン・エヴァンス。二年Sクラス首席だよ。三日間よろしくね」


王立騎士学校の頂点に立つ人物とは思えないほど気楽な口調だった。


だが、その場の誰も彼女を軽く見ることはできない。


首席。


その二文字だけで十分すぎる重みがあった。


「クリスティーナ・アルシェルトです。必要以上に私達を気にする必要はありません。任務の主体は皆様ですので」


「レオン・グランディスだ。困ったことがあれば相談くらいは乗る。ま、気負いすぎるな」


二人も短く挨拶を済ませると、それ以上は何も言わず隊列の後方へ移動していく。


任務の主役は一年生。


自分達はあくまで同行者。


その姿勢を行動で示しているようだった。


やがてレインが大きく頷く。


「出発する」


その一言で四十名の隊列がゆっくりと動き始めた。


高い城壁が少しずつ背後へ遠ざかり、王都の喧騒も次第に小さくなっていく。


隊列の先頭を歩くレインは、歩きながら周囲へ視線を巡らせていた。


先頭を進む者達の歩調。


中央集団の間隔。


最後尾との距離。


装備の緩みはないか。


荷物の固定は十分か。


体調を崩している者はいないか。


隊長の役目は、先頭を歩くことではない。


部隊全体を見ることだった。


少し後方ではアイザックも静かに周囲を観察している。


互いに細かな指示を出し合う必要はない。


何を見るべきかは三ヶ月の合同訓練で嫌というほど叩き込まれていた。


集団行動で最も危険なのは戦闘だけではない。


疲労。


油断。


小さな乱れ。


そうした積み重ねが、いざという時に部隊を崩壊させる。


午前中は順調だった。


街道は広く、天候にも恵まれている。


予定どおりの速度で行軍は続き、大きな問題も起きない。


しかし昼が近づくにつれ、生徒達の表情には少しずつ疲労が浮かび始めた。


剣を振るう体力と歩き続ける体力は別物である。


慣れない装備。


背負った荷物。


一定の歩調を維持し続ける行軍。


思っていた以上に体力を削られていた。


「ふぅ……」


誰かが小さく息を吐く。


額には汗が滲み、肩も少しずつ重くなっていく。


そんな中でも最後尾を歩く二年生三人だけは様子がまるで違った。


歩幅は一定。


呼吸も乱れない。


周囲への警戒も自然なまま。


まるで近所を散歩しているかのような余裕だった。


「すげぇな……」


ロイが思わず呟く。


「あの人達か?」


ガレンが視線だけを向ける。


「他に誰がいるんだよ。全然疲れてないじゃん。俺なんかもう足が重くなってきたぞ」


「それはお前が自主訓練をサボる日があるからだ」


「うるさい」


軽口を叩き合う声に、周囲から小さな笑いが漏れる。


張り詰めていた空気が少しだけ和らいだ。


もっとも、誰も二年生達へ気軽に話しかけようとはしない。


憧れはある。


だが同時に距離もあった。


同じ学校へ通う生徒でありながら、まるで別世界の人間を見ているような感覚だった。


特にリリアはそうだ。


小柄で愛らしい少女にしか見えない。


それなのに騎士学校首席。


学園最強。しかも戦場で大きな戦果もある。


その肩書きが結び付かない。


その頃、最後尾を歩いていたリリアは一年生達の様子を眺めていた。


先頭ではレインが絶えず部隊全体へ視線を配っている。


少し後方ではアイザックが遅れそうな生徒を自然に気に掛けていた。


疲労で空気が沈み始めると、ロイが軽口を叩き、ガレンが呆れながら返す。


そのやり取りだけで空気が少し軽くなる。


他にも水筒の残量を確認し合う者。


荷物の紐を締め直してやる者。


歩調が乱れた仲間へさりげなく声を掛ける者。


まだ未熟ではある。


それでも三ヶ月の合同訓練で積み重ねたものは確かに形になっていた。


「よく訓練されてるね」


リリアがぽつりと呟く。


「ええ」


クリスティーナも静かに頷いた。


「統率は取れています。少なくとも私が予想していた以上です」


「隊長だけじゃないね」


リリアは楽しそうに笑う。


「みんなちゃんと周りを見てる」


レオンも腕を組みながら小さく頷いた。


「このままなら初日としては上出来だな」


そんな会話を交わしているうちに、太陽は頭上近くまで昇っていた。


「休憩!」


バルトの号令が響く。


生徒達は一斉に足を止め、肩から荷物を降ろした。


あちこちから安堵の息が漏れる。


水筒へ手を伸ばし、その場へ腰を下ろす者も少なくない。


その時だった。


リリアが迷いなく歩き出した。


クリスティーナとレオンもその後へ続く。


三人が向かった先は――隊列の先頭で地図を広げていたレインの元だった。


「行ったぞ」


ロイが思わず声を上げる。


「行ったな」


ガレンも小さく頷く。


「隊長、大丈夫か?」


「何がだよ」


ワルは呆れたように返したが、その視線はしっかり前方へ向いていた。


気付けばBクラス全員が同じ方向を見ている。


王立騎士学校最高峰の三人が、真っ直ぐレインの元へ歩み寄っていた。

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