騎士学校最強
「そして最後に補足だ」Aクラス担任の声に一年生達の視線が集まる。「今回の演習は各クラスごとに行動する」
その言葉に訓練場がざわついた。これまで三ヶ月に渡って行われてきた合同訓練では他クラスとの連携も重視されていたため、多くの生徒が学年全体で動くものだと思っていたのだろう。だが担任は構わず続ける。「クラスごとに別行動」「それぞれ独立して任務を行う」「現地付近で他クラスと合流するまでは各部隊の判断で行動しろ」
レインは納得した。むしろその方が自然だ。四十人規模とはいえ一つの部隊であることに変わりはない。現地へ辿り着くまでの行軍、警戒、情報収集まで全て任務に含まれる。査定の対象なのだろう。
「なお各クラスには二年Sクラス生徒を三名ずつ同行させる」今度は先ほどとは違うざわめきが広がった。誰もが後方へ並ぶ二年生達を見る。「ただ先ほど言った通り、指揮権はない」「作戦立案にも介入しない」「任務の主体はあくまで一年生だ」
そこでクリスティーナが一歩前へ出る。「私達は不測の事態の時ために同行します、それ以外は皆様自身で判断してください」
つまり助けてもらえるとは思うなということだ。担任はその部隊ごとの同行者を発表し始める。まずAクラス、次Bクラスの番が来た。「隊長レイン・クロード、副隊長アイザック・レオンハルト」Bクラスの生徒達が自然と二人を見る。レインは普段通りだったが、ロイ達は妙に誇らしそうな顔をしていた。
「同行する二年Sクラス生徒は三名」その言葉と共に三人が前へ出る。先頭ははクリスティーナだった。生徒会副会長として知られているためBクラスからも小さなどよめきが上がる。が次の瞬間、その空気が少し変わった。
「お腹空いたなぁ」小さな少女がそう言いながら前へ出た。緊張感も威圧感もない。まるで散歩の途中のような気楽さだった。「姉御」レオンが思わず声を掛ける。「お、レオンだ」少女は嬉しそうに手を振った。「お久しぶりです」「お久しぶりだね」そのやり取りを見ていた一年生達は困惑する。レオンが敬語を使っている。しかも自然だった。「姉御、今は説明中です」「そうだった」
「そうだった、じゃありません」今度はクリスティーナが口を挟む。「少しは自覚を持ってください」「だって長いんだもん」「子供ですか」「十七歳だよ?」クリスティーナが額を押さえる。その様子にレオンが苦笑した。「相変わらずですね」どうやら二年生Sクラスの人達の間ではいつもの光景らしい。
だが一年生達にとっては衝撃だった。王立騎士学校二年Sクラス首席。誰もが恐ろしい強者を想像していたはずだ。それが実際は天真爛漫な小柄な少女だったのだから無理もない。もっとも、その場にいる二年生達の反応が彼女の格を証明していた。クリスティーナは呆れながらも当然のように接している。レオンは心から敬意を払っている。誰も軽く扱わない。それだけで十分だった。
しかも彼女は相当強い。入学式で見た学園長クラス。
一種の化け物だ。
「あ」その時、少女の視線がレインで止まった。「君がレイン?」突然話を振られたレインは少し驚く。「そうですけど」「へぇ」少女は興味深そうにレインを見る。「面白そう」それだけ言って笑った。理由は分からない。だが妙に楽しそうだった。
近くでワルが小さく鼻で笑っている。「気に入られたんじゃないか」
「何がだよ」レインが小声で返すと、ワルは肩を竦めた。「さあな」担任が咳払いをする。
「出発は三日後だ。それまでに必要な準備を済ませておけ」ようやく説明は終わった。だが一年生達の意識はすでに盗賊討伐へ向いている。そしてレインは別のことも考えていた。盗賊三十人も面倒だが、この三人と行動するのもなかなか大変そうだ、と。




