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英雄なのか?  作者: よろず
アルディア騎士学校
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騎士学校最強


「そして最後に補足だ」


Aクラス担任の声が訓練場へ響くと、一年生達の視線が自然と前方へ集まった。


「今回の演習は各クラスごとに行動する」


その一言に空気が揺れる。


これまで三ヶ月にわたって続いてきた合同訓練では、他クラスとの連携も重視されていた。多くの生徒は今回も学年全体で動くものだと思っていたのだろう。周囲では小さなざわめきが広がり、隣同士で顔を見合わせる姿も少なくなかった。


だが担任は構わず続ける。


「現地へ到着するまで各クラスは独立行動だ。行軍、警戒、野営、情報収集。その全てを任務として扱う。現地付近で他クラスと合流するまでは、各部隊の判断で動け」


レインは小さく息を吐いた。


むしろその方が自然だった。四十人規模とはいえ一つの部隊であることに変わりはない。目的地へたどり着くだけでも警戒や進路選定は必要になる。盗賊討伐の前段階から、すでに演習は始まっているのだろう。


「なお各クラスには、それぞれ二年Sクラスの生徒が同行する」


今度のざわめきは先ほどより明らかに大きかった。


一年生達の視線が一斉に後方へ並ぶ二年生達へ向く。


騎士学校最強。


その名を知らない者はいない。


「同行する人数や顔触れは各クラスで異なる。これも演習の一部だ。与えられた条件の中で最善を尽くせ」


思わぬ説明に一年生達の表情が引き締まる。


「ただし指揮権は持たない。作戦にも介入しない。任務の主体はあくまで一年生だ」


そこでクリスティーナが一歩前へ出た。


「先ほども申し上げたように、私達は不測の事態に備えて同行するだけです。基本的な判断は皆様自身で行ってください」


柔らかな口調だったが、その意味は明確だった。


守ってもらえると思うな。


失敗も判断も、一年生自身が背負えということである。


やがて各クラスごとの同行者が発表されていく。


そしてBクラスの番になった。


「隊長レイン・クロード、副隊長アイザック・レオンハルト」


名前が呼ばれると、Bクラスの視線が自然と二人へ集まった。


レインは特に反応を見せなかったが、後方ではロイが何故か得意げな顔をしている。ガレンやエリオットもどこか誇らしげだった。


「Bクラスへ同行する二年Sクラス生徒は三名」


その言葉とともに三人の二年生が前へ出る。


最初に姿を見せたのはクリスティーナだった。


生徒会副会長として名高い存在だけに、Bクラスから小さなどよめきが起こる。


だが、その空気は次の瞬間に変わった。


「お腹空いたなぁ」


場違いなほど気楽な声だった。


視線の先では、小柄な少女が欠伸混じりに前へ出ている。


緊張感も威圧感もない。


まるで休日の散歩の途中で呼ばれたかのようだった。


「姉御」


思わずレオンが声を掛ける。


「あ、レオンだ。元気〜」


少女は嬉しそうに手を振った。


「お久しぶりです」


レオンが深々と頭を下げる。


「久しぶりだね」


にこりと笑う少女を見て、一年生達は困惑した。


レオンが敬語を使っている。


しかも無理をしている様子ではない。


心から敬意を払っていることが、その姿勢から伝わってきた。


「姉御、今は説明中です」


「そうだった」


「『そうだった』ではありません」


クリスティーナが額へ手を当てる。


「少しは自覚を持ってください」


「だって長いんだもん」


「子供ですか」


「十七歳だよ?」


訓練場のあちこちから思わず笑いが漏れた。


どうやら二年生達の間では見慣れた光景らしい。


しかし一年生達の胸中は別だった。


目の前にいる少女こそ、王立騎士学校二年Sクラス首席。


学園最強の一角。


誰もが鋭い眼光を放つ猛者を想像していた。


だからこそ、この天真爛漫な少女との落差に戸惑っていたのである。


もっとも、その場にいる二年生達の反応こそが、彼女の立場を何より雄弁に物語っていた。


クリスティーナは当然のように接し、レオンは敬意を隠さない。


誰一人として軽んじていない。


それだけで十分だった。


「あ」


不意に少女の視線が止まる。


向けられた先はレインだった。


数秒、じっと見つめる。


まるで何かを確かめるような視線だった。


「君がレイン?」


突然名前を呼ばれ、レインはわずかに目を瞬かせる。


「そうですけど」


「へぇ」


少女は興味深そうに頷いた。


そして小さく笑う。


「面白そう」


それだけ言って満足したように笑みを浮かべる。


理由は分からない。


だが妙に楽しそうだった。


隣でワルが小さく鼻を鳴らす。


「目を付けられたな」


「嫌な言い方をするな」


「事実だろ」


そのやり取りを遮るように担任の咳払いが響いた。


「出発は三日後だ。それまでに必要な準備を済ませておけ」


説明会はそこで終了した。


一年生達の意識は、すでに三日後の演習へ向いている。


初めての実任務形式演習。


初めての盗賊討伐。


そして二年Sクラスとの同行。


その中でレインだけは別のことを考えていた。


盗賊三十人を相手にするのも面倒だが――。


どう考えても、この二年生三人と数日間行動する方が一筋縄ではいきそうになかった。

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