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英雄なのか?  作者: よろず
アルディア騎士学校
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25/212

クラス代表


生徒会室を出た後も、誰からともなく会話が始まることはなかった。


盗賊討伐。


隊長と副隊長。


与えられた情報は決して多くない。それでも八人の胸中には、十分すぎるほどの重みを残していた。


階段を下り、一階へ差しかかったところで、先頭を歩いていた男子生徒が足を止める。


「少し時間はあるか」


声を掛けたのは、Aクラス首席のカイルだった。


自然と全員の視線が集まる。侯爵家の嫡男という肩書きを抜きにしても、彼には人を引き付ける何かがあった。背筋は真っ直ぐに伸び、落ち着いた立ち居振る舞いには、人を安心させる不思議な説得力がある。


「どうせ三ヶ月後には同じ演習へ参加する。互いをよく知らないまま当日を迎えるより、一度くらい話をしておいた方がいいと思ってな」


一瞬だけ沈黙が流れる。


だが、反対する者はいなかった。


隊長候補同士で顔を合わせる機会など、そう何度もあるものではない。今この場を逃せば、次に全員が揃うのは演習直前になる可能性すらあった。


「異論がないなら、少し付き合ってくれ」


数分後。


八人は近くの空き教室へ移動していた。


放課後の校舎は静かで、窓から差し込む夕陽が長く机を照らしている。自然と円を描くように席へ着くと、カイルは全員の顔を一人ずつ見渡した。


「まずは自己紹介から始めよう」


誰も異論はない。


カイルは軽く頷き、自ら口火を切る。


「Aクラス首席、カイル・フォン・アークレイだ。侯爵家の出だが、ここでは家柄より実力で付き合ってほしい」


飾らない一言だった。


その自然な物言いだけで、肩に入っていた力が少し抜けた者もいた。


続いて隣の青年が口を開く。


「Aクラス次席、ミハイル・フォン・ベルク。ベルク伯爵家の長男だ」


短く名乗ると、それ以上は何も続けない。


愛想が悪いわけではない。ただ必要以上を語る性格ではないのだろう。


その視線が今度はレイン達へ向けられる。


「Bクラス首席、レイン・クロードです」


レインは軽く笑みを浮かべた。


「平民です。剣と魔法を少しかじっています。よろしくお願いします」


当然ながら嘘だった。


しかし、それを見抜ける者はいない。


何人かが小さく反応する。平民でありながらBクラス首席というだけでも珍しい。


カイルは興味深そうにレインを見つめていた。ランキング戦の結果くらいは、すでに耳へ入っているのだろう。


「アイザック・レオンハルト」


次に立ち上がったのはアイザックだった。


「Bクラス次席。子爵家の次男です」


そこまで言って黙る。


誰もが続きを待った。


しかし本人は本当に終わったつもりらしい。


「……以上です」


教室に小さな笑いが広がる。


アイザックだけが、不思議そうに周囲を見回していた。


張り詰めていた空気が、その一瞬だけ柔らかくなる。


その後も自己紹介は続いた。


「Cクラス首席、ルーク・フォン・ハイゼンだ」


大柄な青年は照れくさそうに頭を掻く。


「男爵家の出だけど、正直言うと隊長なんて柄じゃない。剣を振るう方が性に合ってる」


その率直な物言いに、何人かの表情が自然と和らいだ。


「Cクラス次席、セレナライ・リーフェルトです」


栗色の髪を肩まで伸ばした少女が、静かに一礼する。


「商家の生まれです。戦いは得意ではありませんが、人の話を聞くことなら負けません。よろしくお願いします」


穏やかな口調だったが、不思議と安心感を覚える声だった。


続いて、巨体の男子生徒が立ち上がる。


「Dクラス首席、ガルド・フォン・レイナーク」


それだけだった。


騎士爵家出身ということだけを告げ、再び席へ腰を下ろす。


多くを語らない。


それでも鍛え抜かれた体格と静かな眼差しだけで、十分な存在感があった。


最後に、小柄な少女が少し緊張した様子で立ち上がる。


「Dクラス次席、リルリ・レインスです」


深く頭を下げてから、小さく笑った。


「平民です。皆さんの足を引っ張らないよう頑張ります」


控えめな言葉だった。


だが、この場にいる誰もその言葉を額面どおりには受け取らない。


一年生百六十人の中で、Dクラス二位まで上り詰めた実力は本物なのだから。


全員の自己紹介が終わると、教室に短い静寂が訪れた。


誰も口を開かない。


それでも互いの視線だけは自然と交わっていた。


誰が冷静に状況を見極める人間なのか。


誰が仲間をまとめる力を持っているのか。


そして、誰になら背中を預けられるのか。


答えはまだ分からない。


それでも、この場に集められた八人は全員理解していた。


三ヶ月後、自分達はそれぞれのクラスを率いて同じ戦場へ向かう。


その時、隣に立つ仲間のことを今より少しでも知っているかどうかが、結果を左右するかもしれない。


夕陽が教室を赤く染める中、八人は誰からともなく次の話題を切り出した。


三ヶ月後へ向けた準備は、その瞬間から静かに始まっていた。

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