再び
数日後、レインは再び生徒会から呼び出しを受けた。今回は一人ではない。アイザックを含めた各クラスの上位者達も同席するらしく、指定された時間に本館最上階へ向かうと、そこにはすでに六人の生徒が集まっていた。
Aクラス首席のカイルと次席のミハイル。CクラスとDクラスの上位者達も顔を揃えている。互いに名前くらいは知っていても、こうして同じ場所へ集められる機会はほとんどない。自然と交わされる挨拶もどこか探り合うようなものだったが、やがて廊下の奥からクリスティーナが姿を現したことで会話は途切れた。
「皆様、こちらへ」
案内されたのは先日訪れた生徒会室ではなかった。その向かい側にある重厚な扉の前である。まるで騎士団本部の会議室を思わせる造りだった。
クリスティーナが扉を叩く。
「皆様をお連れしました」
「入りたまえ」
中から聞こえてきたのは、聞き慣れた声だった。
扉が開かれると、広い会議室が姿を現す。奥にはエドワードが座り、その左右には生徒会役員達が並んでいた。促されるまま席へ着くと、それまで残っていた雑談も自然と消えていく。
全員が座ったことを確認したエドワードは、静かに立ち上がった。
穏やかな笑みはいつもと変わらない。しかし不思議なことに、その場の空気は自然と引き締まっていた。
「集まってもらった理由は一つだ」
静かな声が会議室へ響く。
「今日ここへ集まってもらったのは、各クラスの首席と次席――今回の実務演習で隊長、副隊長を務める候補者達だからだ」
その一言で、なぜ自分達だけが呼ばれたのかを全員が理解した。
エドワードは机の上に置かれた書類へ視線を落としながら、話を続ける。
「三ヶ月後に実施される実務演習について説明する」
その言葉に全員の意識が集中した。
「まず最初に伝えておく。これから話す内容は演習当日まで口外禁止だ。違反した場合は査定対象となる」
冗談ではない。
その一言だけで十分だった。誰もが表情を引き締めるのを確認してから、エドワードは本題へ入る。
「今回の演習は王国から正式に依頼された案件だ」
ただの学校行事ではない。その言葉だけで空気が変わった。
騎士学校である以上、実務演習そのものは珍しくない。しかし、王国からの正式依頼という言葉の重みは別だった。
「依頼内容は盗賊討伐」
今度こそ、会議室の空気が明確に変わる。
誰かが小さく息を呑んだ。
レインの隣ではアイザックが僅かに眉を動かし、向かい側のミハイルも腕を組み直している。
盗賊討伐。
魔物ではない。
人間だ。
剣を向ければ死ぬし、向こうも殺すつもりで襲ってくる。夜間奇襲訓練とは、根本的に意味が違う。
「対象となる盗賊団の規模は三十名前後」
小さなどよめきが広がった。
三十名という数字は、騎士団から見れば決して大規模ではない。だが、十六歳の学生達からすれば話は別だった。実際に刃を向けてくる敵が三十人いる。その事実だけで十分な脅威である。
「本当に一年生だけで行うのですか」
口を開いたのはミハイルだった。
当然の疑問だろう。
エドワードは小さく頷く。
「基本的には」
その言葉に何人かが反応した。基本的には、ということは例外が存在するということだ。しかし、エドワードはそれ以上を語らない。
「詳細は演習当日に伝達される。現時点で伝えられる情報はここまでだ」
不満そうな顔をする者もいたが、誰も口には出さなかった。騎士団の任務も同じだ。必要以上の情報が、事前に共有されるとは限らない。
「三ヶ月後までに準備を進めろ」
エドワードが静かに言った。
「自分のクラスを見ろ。誰が何を得意とし、何を苦手としているのか把握しろ。戦う前に人を知れ」
その言葉は、夜間奇襲訓練でバルトが語った内容とどこか似ていた。
強い者が勝つのではない。
人を活かせる者が勝つ。
おそらく今回の演習で試されるのも、そこなのだろう。
エドワードが資料を閉じる。
「説明は以上だ」
短い言葉だった。しかし会議室を出る頃には、ここへ来た時と同じ気持ちでいられる者は一人もいなかった。
三ヶ月後に待つのは、ただの学校行事ではない。
盗賊討伐。
部隊指揮。
そして初めて背負う責任。
その重みだけは、全員がはっきりと理解していた。




