潜入成功2
放課後。
講義を終えた学生たちが次々と校舎から姿を現し、静かだった学園は一気に活気を帯び始めた。
談笑しながら寮へ戻る者、研究棟へ向かう者、演習場へ急ぐ者。それぞれが思い思いの放課後を過ごし始め、広場には学生たちの笑い声が広がっていく。
「それでは、お約束通り学園をご案内しますね。」
イリシアが穏やかに微笑む。
「まずはこちらです。」
案内された先は、学園中央に建つ巨大な図書館だった。
白い石造りの建物は五階建て。その規模だけでも圧倒されるが、中へ足を踏み入れると、その広さは外から見た以上だった。
高く伸びる本棚が幾列も並び、魔法や魔導工学、歴史、古代文字、薬学など、分野ごとに膨大な蔵書が収められている。
さらに天井近くでは、小さな浮遊魔導具が返却された本を自動で棚へ戻していた。
「すごい……。」
思わず漏れたピリカの声に、イリシアが笑みを浮かべる。
「一般開放区画だけでも、このくらいあります。奥には研究者専用の区画もあるんですよ。」
館内を一巡した四人は、そのまま研究棟へ向かった。
廊下の両側には大小さまざまな研究室が並び、扉の向こうからは魔法陣の光や金属を削る音が聞こえてくる。
「こちらは魔導具研究棟です。」
中では学生たちが机いっぱいに魔導部品を広げ、魔導灯や測定器、小型の生活魔導具などを組み立てていた。
「授業だけでなく、放課後も自主的に研究を続ける学生が多いんです。」
「なるほど。」
レインは静かに頷く。
騎士学校であれば、この時間は訓練場へ向かう生徒が大半だった。
学園が違えば、放課後の過ごし方もまるで違うらしい。
研究棟を抜けると、今度は甘い薬草の香りが風に乗って漂ってきた。
そこは薬学・錬金術棟だった。
乾燥させた薬草が棚いっぱいに並び、実験室では学生たちが魔力を込めながら薬液を調合している。
さらに奥へ進めば、温室の中には色鮮やかな魔法植物が整然と植えられていた。
火属性の魔力を帯びた赤い花。
夜になると淡く光る苔。
治癒薬の材料となる薬草。
「実習でも使う植物ばかりなんです。」
イリシアが説明すると、ピリカは興味深そうに温室を見渡していた。
再び外へ出ると、遠くから爆発音が響いた。
視線を向ければ、広大な演習場で学生たちが模擬戦を行っている。
何重もの結界に囲まれた訓練区画では炎と氷の魔法が交差し、その上空では飛行魔法の訓練まで行われていた。
「安全面にはかなり力を入れているそうです。」
イリシアの言葉に、エレアは静かに頷く。
「これだけの規模なら、高位魔法の訓練にも対応できますね。」
演習場を後にした四人は、学生食堂へ足を運んだ。
広い食堂には各国の料理が並び、講義を終えた学生たちで賑わっている。
帝国料理、連邦料理、東方諸国の麺料理まで揃っており、その種類の多さは王都の食堂にも引けを取らない。
「時間によって日替わり料理もあるんですよ。」
「毎日通っても飽きなさそうですね。」
穏やかな会話を交わしながら歩き続けるうちに、太陽はゆっくりと西へ傾き始めていた。
最後に案内されたのは、古代文字研究棟だった。
昨日訪れた研究所ほどの規模ではないものの、学生や若い研究者たちが石板や古文書を囲み、熱心に議論を交わしている。
「私はここへ来ることが一番多いんです。」
そう語るイリシアの表情は、どこか嬉しそうだった。
一通り案内を終え、四人が帰路へ就こうとした、その時だった。
研究棟の一角だけ、人の気配がない建物が目に入る。
入口には立入禁止の札が掛けられ、窓には内側から板が打ち付けられていた。
ピリカが首を傾げる。
「あそこだけ使ってないの?」
イリシアも足を止め、その建物へ視線を向ける。
「……あちらは、最近閉鎖された研究室です。」
それだけ告げると、それ以上は何も言わなかった。
夕暮れの光に照らされた静かな建物だけが、不自然なほど周囲から切り離されたように佇んでいた。




