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英雄なのか?  作者: よろず
エルディオン連邦編
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211/225

再会


高級屋敷街へ足を踏み入れると、街の空気が一変した。


石畳は隅々まで磨き上げられ、道幅も学園周辺より広い。両脇には高い塀に囲まれた屋敷が立ち並び、それぞれの門には各家を示す紋章が掲げられている。


王侯貴族や各国の有力者が滞在する区画だけあり、人通りは驚くほど少ない。その代わり、門番や巡回する私兵の姿が至るところに見受けられた。通りを歩くだけでも、幾つもの視線がこちらを確認しているのが分かる。


「警備が厳しいですね。」


レインが小さく呟く。


「当然でしょう。」


エレアは周囲へ視線を巡らせた。


「この辺りに滞在しているのは、各国でも指折りの身分を持つ方々ばかりです。警備が厳重でなければ、それ自体が問題になります。」


やがて三人は、一軒の屋敷の前で足を止めた。


白い石壁に囲まれた瀟洒な屋敷。


広い庭は丁寧に整えられ、数名の私兵が一定の間隔を保ちながら巡回している。屋敷全体から漂う警戒の気配は、近隣の屋敷と比べても一段上だった。


しかし――。


「思ったより小さいですね。」


エレアが率直な感想を漏らす。


ピリカも同意するように頷いた。


「ザルディア帝国公爵家の三女ですから、もっと大規模な屋敷を想像していた。」


「十分大きいけどね。」


レインが苦笑する。


確かに一般的な屋敷と比べれば十分過ぎるほど広い。


だが、帝国でも屈指の公爵家令嬢の滞在先として考えれば、これは長期滞在用に用意された別邸という印象だった。


門へ近づいたレインは、小さく首を傾げる。


「……門番がいませんね。」


帝国公爵家の屋敷なら、正門には門衛が立っていて当然のはずだった。


そう思った、その時だった。


「門番なら必要ありません。」


聞き覚えのある落ち着いた声が静かに響く。


屋敷の門柱の陰から、一人の女性が姿を現した。


黒髪を後ろでまとめ、侍女服へ身を包んだその姿は、ライゼンで別れた時と何一つ変わっていない。


リーヴェだった。


「屋敷の前に得体の知れない気配を感じましたので、誰かと思えば……。」


穏やかな微笑みを浮かべる。


「皆様でしたか。」


リーヴェは三人へ丁寧に一礼した。


「ライゼンでは、イリシア様を護衛していただき、本当にありがとうございました。」


その言葉を口にしながら顔を上げた、その瞬間だった。


リーヴェの視線が、ピリカで止まる。


空気が変わった。


表情は変わらない。


だが、レインとエレアには分かった。


殺気はない。


それでも全身の力が一瞬で研ぎ澄まされ、いつでも動ける状態へ切り替わっている。


指先が僅かに侍女服の内側へ添えられ、重心が半歩だけ落ちた。


ほんの僅かでも異変があれば、次の瞬間には制圧へ移る。


それほど自然で、それほど隙のない構えだった。


対するピリカは、そんな緊張などまるで気付いていない。


「?」


小さく首を傾げるだけで、きょとんとしている。


レインは小さく咳払いをした。


「リーヴェ殿。」


「……はい。」


警戒を解かないまま、リーヴェが返事をする。


「紹介します。」


レインは苦笑しながら続けた。


「リーヴェ殿ならご存じかと思いますが……あのイゼルダ様のお孫さんです。」


一瞬だった。


リーヴェの瞳が大きく見開かれる。


「……まさか。」


ピリカは何の緊張もなく、にこりと笑った。


「ピリカだよ!」


元気よく頭を下げる。


「おばあちゃんに、レインたちについて行きなさいって言われたの!」


その名前を聞いた瞬間だった。


屋敷を包んでいた張り詰めた空気が、ふっと消える。


リーヴェは深く息を吐くと、すぐに姿勢を正し、改めて丁寧に頭を下げた。


「これは大変失礼いたしました。」


先ほどまでの警戒は、もう欠片も残っていない。


「あの方のお孫様とは存じ上げず、無礼をお許しください。」


「ううん。」


ピリカはけろりと笑う。


「全然気にしてないよ!」


その屈託のない笑顔に、リーヴェもようやく小さく笑みを浮かべた。


「……なるほど。」


レインたちへ視線を戻す。


「皆様が新たな旅の仲間として迎えられた理由が、よく分かりました。」


そう言うとリーヴェは一歩身を引き、屋敷の門へ手を添える。


「どうぞ、お入りください。イリシア様も、皆様のお越しを大変喜ばれると思います。」

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