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英雄なのか?  作者: よろず
エルディオン連邦編
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207/234

また東諸国で


研究員たちに見送られ、レインたちは古代文字研究所を後にした。


外へ出ると、夕暮れの空は茜色から群青へとゆっくり色を変え始めている。石畳の通りには魔導灯が一つ、また一つと灯り始め、研究都市アストレアは昼間とは違う落ち着いた表情を見せていた。


しばらく四人は並んで歩く。


誰も口を開かなかった。


それぞれが、先ほど研究所で聞いた話を静かに噛みしめていたからだ。


やがて最初に口を開いたのはサンロだった。


「……私も、そろそろ東方諸国へ戻らなければなりません。」


レインが隣を見る。


「もう帰られるのですか。」


「本当なら、もう少しこちらで商売もしたいですし、研究所の様子も気になります。」


サンロは苦笑を浮かべる。


「ですが、これ以上帰らないと商会の者たちに本気で怒られます。」


そう言った途端、肩がぴくりと震えた。


「前回も『また勝手に予定を延ばしたんですか』と散々叱られまして……。」


「今回はかなり長く留守にしていますから……想像するだけで胃が痛いです。」


その姿にピリカが吹き出した。


「そんなに怖いの?」


「こ、怖いですよ!」


サンロは即座に頷く。


「商会長だから好き勝手できると思われがちですが、幹部全員から一斉に詰め寄られるんです。」


「『商会長、仕事をしてください』って。」


両肩を抱えて震える姿は、東方で名の知れた商人とは思えない。


エレアも思わず口元へ手を添えた。


「それは……少し見てみたい気もしますね。」


「勘弁してください。」


サンロは心底困ったように笑った。


笑いが落ち着くと、サンロは改めて三人へ向き直る。


「本音を言えば……皆さんにも東方まで護衛をお願いしたいところです。」


「皆さんと一緒なら、道中も安心ですから。」


レインは穏やかに首を横へ振った。


「申し訳ありません。」


「私たちは、もう少しエルディオン連邦を見て回る予定です。」


「せっかくここまで来ましたから、各国の文化や魔導技術も、自分たちの目で見ておきたいと思っています。」


エレアも静かに頷く。


「まだ訪れていない共和国や公国もありますし、急いで帰る理由もありませんから。」


「そうですか。」


サンロは少し残念そうに笑ったが、すぐに表情を和らげた。


「皆さんらしいですね。」


「またどこかで、ご一緒できる日を楽しみにしております。」


するとピリカがぱんっと手を叩いた。


「はい、この話は終わり!」


三人が一斉に振り向く。


「せっかく依頼も終わったんだし、今日は美味しいもの食べよう!」


その一言に、自然と全員の表情がほころぶ。


「それは賛成です。」


サンロも笑顔で頷いた。


「帰る前に、改めて皆さんへお礼もしたいですから。」


レインとエレアも顔を見合わせ、小さく笑う。


「では行きましょう。」


四人は夕暮れの街を歩き、賑わい始めた食事処へ向かった。


翌々日の朝。


アストレアの街は、朝日を浴びながらゆっくりと目を覚まし始めていた。


街の東門には何台もの荷馬車が並び、商隊の護衛を務める冒険者や傭兵たちが出発の準備を進めている。


その一角で、サンロの馬車にも最後の荷物が積み込まれていた。


「忘れ物はありませんか。」


サンロが確認すると、積み込みを終えた商人が一礼する。


「すべて準備できております。」


「分かりました。」


サンロは満足そうに頷くと、レインたちのもとへ歩み寄った。


「皆さん、本当にありがとうございました。」


そう言って深く頭を下げる。


「今回の旅は、皆さんがいなければ途中で終わっていたかもしれません。」


「あの木箱を無事にアストレアまで運ぶことができたのも、皆さんのおかげです。」


レインは穏やかに首を横へ振る。


「私たちは依頼を果たしただけです。」


「それでもです。」


サンロは静かに笑った。


「皆さんには、依頼以上のものをいただきました。」


一呼吸置き、どこか照れくさそうに続ける。


「東方諸国へ来られる機会がありましたら、その時はぜひサンロ商会へお立ち寄りください。」


「今度は依頼人としてではありません。」


「友人として、皆さんを歓迎したいと思っています。」


「商人は、人との縁が何よりの財産ですから。」


「改めて、お礼もさせてください。」


ピリカは嬉しそうに笑った。


「その時は遠慮しないからね。」


「望むところです。」


サンロも笑い返す。


「東方には、こちらとは違う料理も景色もあります。商人しか知らないような場所にもご案内できますよ。」


「それは楽しみですね。」


エレアが微笑むと、サンロは嬉しそうに頷いた。


やがて御者が出発の時間を告げる。


「商会長、そろそろ参りましょう。」


「ええ。」


サンロは最後にもう一度三人を見渡した。


「皆さん、お元気で。」


「また必ず、お会いしましょう。」


レインたちも静かに頷く。


「道中、お気を付けて。」


「ありがとうございます。」


サンロは軽く手を振ると馬車へ乗り込み、商隊はゆっくりと東門を抜けて街道へ進み始めた。


朝日に照らされた幌馬車は少しずつ小さくなり、やがて街道の彼方へと消えていく。


レインはその背中を静かに見送り、小さく息を吐いた。


「さて。」


「私たちも行きましょう。」


エレアとピリカも頷き、三人は再び賑わい始めたアストレアの街へ歩き出した。

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