報告
しばらく言葉を失っていた学生たちだったが、代表の男子生徒が我に返ったように姿勢を正した。
「……本日は、本当にありがとうございました。」
その言葉に合わせるように、残る五人も深く頭を下げる。
「助けていただいただけでなく、回復薬まで譲っていただいて……。」
「おかげで全員無事に戻れます。」
レインは穏やかに首を横へ振った。
「皆さんが無事なら、それで十分です。」
「ただ、この洞窟は少しの油断で状況が大きく変わります。次は十分に準備を整えてから挑んでください。」
「はい。」
六人は力強く頷いた。
女子生徒の一人が少し名残惜しそうに微笑む。
「また、どこかでお会いできたら。」
「その時は、今度こそ私たちがお礼をさせてください。」
「ありがとうございます。」
レインも小さく笑みを返す。
それ以上長話をすることなく、学生たちは街道へ向かって歩き始めた。
何度か振り返って手を振る姿が見えなくなると、レインは小さく息を吐く。
「行きましょう。」
「はい。」
「うん。」
三人は再びアストレアの街へ戻り、冒険者ギルドへ向かった。
受付へ依頼書と採取した素材を提出すると、受付嬢は一つひとつ確認し、満足そうに頷く。
「《岩殻リザード》の尾腺、五つ。依頼達成です。」
報酬の入った革袋を受け取ると、三人はそのままギルドを後にした。
夕暮れが近づいたアストレアは、昼間とはまた違った賑わいを見せていた。
講義を終えた学生たちが仲間と語り合いながら街を歩き、露店には帰宅前の客が集まっている。
「予定より早く終わりましたね。」
エレアが空を見上げる。
「研究所の結果が出るまでは、まだ数日あります。」
「その間に街を見て回るのも良さそうですね。」
「さっき教えてもらったお店も行きたい!」
ピリカが嬉しそうに辺りを見回す。
レインも頷いた。
「まずは街の地理を覚えておきましょう。」
「今後のためにも、その方が良さそうです。」
三人は夕日に染まる石畳を踏みしめ、宿へ戻った。
食堂では夕食の時間を迎え、多くの宿泊客が席を埋めていた。
冒険者だけでなく、学生や研究者の姿も目立つ。
魔導書を片手に食事をする者、実験結果について議論を交わす者。
そんな光景も、この街ではごく当たり前なのだろう。
「おかえり。」
宿の女将が三人に気付き、笑顔で迎える。
「依頼は無事終わったようだね。」
「はい。」
レインが頷くと、女将も満足そうに笑った。
「それなら良かった。今日はシチューを仕込んであるよ。」
「ありがとうございます。」
三人は空いている席へ腰を下ろす。
ほどなく運ばれてきたのは、湯気の立つ白いシチューと焼きたてのパンだった。
「わぁ、おいしそう!」
待ちきれず一口食べたピリカの表情が、一気にほころぶ。
「これ、おいしい!」
「口に合ったなら良かったよ。」
女将も嬉しそうに笑う。
エレアも静かに口へ運び、小さく頷いた。
「優しい味ですね。」
レインも一口味わい、自然と肩の力が抜けるのを感じた。
「学生さんたち、面白い人ばかりだったね。」
パンを頬張りながらピリカが笑う。
「教えてもらったお店も全部気になる。」
「研究所から連絡が来るまで時間があります。」
エレアが微笑む。
「明日は街をゆっくり歩いてみましょう。」
「情報収集にもなりますしね。」
レインも頷く。
「やった!」
ピリカは嬉しそうにもう一切れパンを手に取った。
食堂には穏やかな時間が流れていた。
学生や旅人たちの談笑が響き、厨房からは料理を作る音が聞こえてくる。
窓の外では夕暮れの空がゆっくりと藍色へ染まり、街には一つ、また一つと魔導灯が灯り始めていた。
三人は久しぶりに慌ただしさを忘れ、穏やかな夕食の時間を過ごした。




