魔晶洞窟
受付嬢は手際よく手続きを終えると、依頼書へ受注印を押した。
「これで正式に受注完了です。採取対象は《岩殻リザード》の尾腺。必要数は五つとなります。」
「納品先は当ギルドでよろしいでしょうか。」
「はい。研究所への納品はこちらで行いますので、皆様は素材をお持ちいただくだけで結構です。」
レインは依頼書を受け取り、小さく頷いた。
「承知しました。」
三人は受付嬢へ礼を告げると、冒険者ギルドを後にした。
外へ出ると、午後の日差しが石畳を明るく照らしていた。
研究所へ向かう白衣姿の研究者。本を抱えて足早に講義へ向かう学生たち。広場では露店が軒を連ね、魔導具や魔法素材を並べた商人たちが威勢よく客を呼び込んでいる。
学問の都と呼ばれるだけあり、街全体にどこか落ち着いた活気があった。
「魔晶洞窟までは馬車で半日ほどです。」
ギルドで借りた地図を確認しながらエレアが言う。
「日が暮れる前には着けそうですね。」
「急ぎましょう。」
レインが歩き出すと、エレアとピリカも並んで後に続いた。
三人とも深くフードを被っている。
冒険者が砂埃や日差しを避けるため顔を隠すことは珍しくなく、街を行き交う人々も特に気に留める様子はなかった。
やがて城壁を抜けると、街道は緩やかな丘陵地帯へ続いていく。
途中、採集帰りと思われる学生や冒険者たちと何度かすれ違ったが、互いに軽く会釈を交わす程度だった。
半日ほど歩いた頃。
切り立った岩山の麓に、大きく口を開けた洞窟が姿を現した。
入口の周囲には大小さまざまな荷車が止まり、冒険者たちが装備を整えている。
中には制服姿の学生たちの姿も少なくなかった。
「思った以上に人がいますね。」
エレアが周囲を見渡す。
「素材の宝庫ですから。」
レインも洞窟の奥へ視線を向ける。
「研究所からの依頼も多いのでしょう。」
入口には注意書きが掲げられていた。
――魔晶洞窟。
――洞窟内では魔法・魔導具が正常に機能しない場合があります。
――単独行動は推奨しません。
レインは一度だけその文字へ目を通すと、静かに歩き出した。
洞窟へ一歩足を踏み入れた瞬間、外の暑さが嘘のような冷気が肌を撫でる。
壁や天井には青白く輝く魔晶石が無数に埋め込まれ、薄暗い洞窟を幻想的な光で照らしていた。
エレアは試しに小さな光魔法を発動しようとする。
しかし、指先へ集まった魔力は音もなく霧散した。
「……なるほど。」
小さく苦笑する。
「本当に使えませんね。」
レインも周囲へ意識を巡らせながら頷いた。
「今回は剣が頼りになりそうです。」
三人は慎重に第一層を進む。
ほどなくして、天井から羽音が響いた。
十数匹の魔晶バットが一斉に舞い降りてくる。
一匹一匹は弱い。
しかし数が多く、狭い洞窟では厄介な相手だった。
レインは剣を抜き、最小限の動きで一匹ずつ斬り落としていく。
エレアも短剣を抜き、死角から迫る個体だけを正確に仕留める。
ピリカは二人の隙を埋めるように周囲を警戒し、飛び込んできた一匹の首筋へ短剣を滑らせた。
群れは数分も経たず全滅する。
「思ったより弱いね。」
ピリカが短剣を鞘へ収める。
「でも、数は多そう。」
「油断はできません。」
レインは奥へ続く通路へ目を向けた。
「先へ進みましょう。」
三人はそのまま第二層へ続く通路へ足を進めた。




