学園都市アストレア
二日後――。
緩やかな丘を越えた先で、サンロが馬車の速度を落とした。
「見えてきました。」
その言葉にレインとエレアが窓の外へ視線を向ける。
遥か前方には、高い城壁に囲まれた巨大な都市が広がっていた。
「あれが……。」
「首都アストレアです。」
街の規模そのものは、アルディア王都やカルドニア王都と比べて特別大きいわけではない。しかし、一目見ただけで漂う空気はまるで違っていた。
街道を行き交う人々の多くが杖や書物を携え、ローブ姿の魔導師や研究者らしき者たちが当たり前のように議論を交わしながら歩いている。大きな荷車には魔導鉱石や見慣れない素材が積まれ、商人たちはそれを慣れた様子で売買していた。
「世界中から人が集まる、と言っていましたね。」
エレアが呟くと、サンロは嬉しそうに頷いた。
「ええ。魔導師だけではありません。学者、研究者、学生、魔導具職人、商人……この街で暮らす理由は人それぞれです。」
馬車は城門をくぐり、石畳の大通りへ入る。
街並み自体は他国と大きく変わらない。石造りの建物が並び、宿屋や食堂、衣料品店が軒を連ね、人々の笑い声が聞こえてくる。
違うのは、その間に建つ施設だった。
巨大な図書館。
何棟も並ぶ研究所。
広大な講堂。
魔導具店や書店、素材店は一つや二つではなく、大通りだけでも数え切れないほど並んでいる。
さらに、街の至る所で制服姿の学生たちが本を抱えて歩き、建物を出入りする研究者たちが新しい発見について熱心に議論していた。
「ここでは研究が日常なんです。」
サンロは街並みを見渡しながら続ける。
「首都アストレアは、アストレア魔導公国の政治と学問、その両方の中心です。王城は存在せず、公国を統べる《アストレアの魔女》も、この学園都市の中枢で研究と公務を行っています。」
「都市そのものが学園……。」
レインは思わず呟いた。
「その通りです。古代文字研究所、古代魔法研究所、魔法陣研究所をはじめ、数え切れない研究施設がこの街に集まっています。世界最高峰の魔導研究都市と呼ばれる理由ですね。」
馬車は賑わう大通りをゆっくりと進む。
書店の店先では新しい魔導書を巡って学生たちが言い争い、研究所の前では白衣姿の研究者が魔法陣の図面を片手に議論を続けている。
剣や鎧よりも、本と魔導具を抱えた人々の方が目につく光景は、レインたちがこれまで旅してきたどの国とも違っていた。
「さて。」
サンロは前方を見据え、小さく笑う。
「まずは宿を確保しましょう。それから、今回の旅の目的である古代文字研究所へ向かいます。」




