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英雄なのか?  作者: よろず
エルディオン連邦編
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魔導具の普及


馬車は緩やかな坂を登りきると、その先に広がる景色が大きく変わった。


街道脇には「エルディオン連邦」と刻まれた石造りの標柱が立ち、その先には高い城壁ではなく、広々とした検問所が設けられている。荷馬車や旅人は何列にも分かれて順番を待ち、兵士だけでなく文官たちが書類へ目を通しながら一人ひとり丁寧に対応していた。


「着きましたよ。」


御者台からサンロが振り返る。


「ここから先が、エルディオン連邦です。」


レインは窓の外へ視線を向けた。


アルディア王国ともカルドニア王国とも違う空気だった。


武装した兵士は各所へ配置されている。だが、それ以上に目を引くのは街道を埋める人々の姿だった。


豪華な衣装を纏う商人。見慣れない民族衣装の旅人。耳の長い種族や屈強な傭兵風の男たちまでいる。


様々な国の人々が、ごく当たり前のように同じ街道を行き交っていた。


「思っていたより賑やかですね。」


エレアが静かに呟く。


「連邦は加盟国同士の往来が盛んですからね。」


サンロは笑みを浮かべながら答えた。


「他国から訪れる商人や研究者も多いんです。」


そう言って荷台の木箱を軽く叩く。


「特にアストレア魔導公国は別格ですよ。世界中から魔導師や学者が集まります。私のような商人も珍しくありません。」


列はゆっくりと進み、やがて馬車は検問所の前で止まった。


「身分証の提示をお願いします。」


落ち着いた声で文官が告げる。


サンロが商人証を差し出し、続いてレインたちも冒険者証を提示した。


文官は一枚ずつ確認すると、荷台へ視線を移す。


「積み荷は。」


「書籍と商材です。」


「危険物は。」


「ありません。」


質疑は形式的なものだった。


木箱も魔導具による簡単な検査を受けるだけで、開封を求められることはない。


やがて文官は書類を閉じ、小さく頷いた。


「問題ありません。」


「ようこそ、エルディオン連邦へ。」


遮断機が静かに上がる。


馬車は再びゆっくりと動き始めた。


国境を越えたからといって、景色が劇的に変わるわけではない。


石畳の街道はそのまま続き、左右には畑や小さな村が点在している。旅人や商隊が行き交う光景も、これまでと大きな違いはなかった。


しかし、よく目を向けると違いはすぐに見えてくる。


村の入口には小さな魔導灯が整然と並び、井戸には水を汲み上げる魔導具が据え付けられていた。


魔導技術が、ごく自然に人々の暮らしへ溶け込んでいる。


「魔法が特別な力じゃなく、生活の一部になってるんですね。」


レインの言葉に、サンロは嬉しそうに頷いた。


「ええ。それが連邦の特徴です。魔導具そのものは他国にもありますが、ここまで生活へ浸透している国はそう多くありません。」


そう言って前方へ続く街道へ目を向ける。


「もっとも、これでも連邦全体から見れば、まだほんの一部に過ぎません。」


「え?」


ピリカが首を傾げた。


「アストレア魔導公国へ入れば、きっともっと驚きますよ。」


サンロは笑みを浮かべる。


「魔導技術は、この先へ進むほど発展しています。街並みも、人々の暮らしも、他国とはまるで違います。」


レインは再び窓の外へ視線を向けた。


連邦へ入っただけでも、これまで訪れた国との違いは十分に感じられる。


その中心とも言えるアストレア魔導公国は、一体どれほど発展した国なのか。


自然と期待が膨らんでいった。


その日の昼、一行は街道沿いの小さな町へ立ち寄った。


宿場町として栄えているらしく、通りには旅人や商人の姿が絶えない。


昼食を取るため酒場へ入ると、店内では魔導師や研究者と思われる者たちが卓を囲み、紙へ魔法陣を書き込みながら議論を交わしていた。


隣の席では商人同士が希少素材の相場について話し合っている。


剣や戦争の話題が絶えなかったこれまでの旅とは違い、この国では知識や研究が人々の会話の中心になっていた。


食事を終え、再び馬車へ乗り込む。


サンロは地図を広げながら口を開いた。


「ここから首都アストレアまでは、あと二日ほどです。」


地図の中央には、大きく円で囲まれた都市が描かれている。


「首都アストレアは、公国最大の都市であり、世界最高峰の魔導研究都市です。古代文字研究所も、私たちの目的地も、すべてそこにあります。」


レインは地図を見つめ、小さく頷いた。


長かった旅も、いよいよ終わりが近づいている。


その先で待つのは、世界最高峰の魔導研究都市。


そして、これまで誰も答えへ辿り着けなかった古代の書物に、新たな手掛かりが見つかるかもしれなかった。

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