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英雄なのか?  作者: よろず
エルディオン連邦編
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194/212

エルディオン連邦とは


「もちろん名前は知っています。」

レインが答えると、ゼルディアは静かに頷いた。

「では、まずはその国が属するエルディオン連邦からお話ししましょう。」

彼女は椅子へ深く腰を下ろし、両手を組んだ。

「エルディオン連邦は、西側諸国を代表する六大大国の一つです。アルディア王国やカルドニア王国と肩を並べる存在ですが、その成り立ちは大きく異なります。」

「一つの王国ではありません。」

「複数の共和国や公国が、それぞれの自治を維持したまま連邦を形成している国家です。」

サンロは興味深そうに耳を傾ける。

東方にも国同士の同盟は存在する。

しかし、一つの国家としてまとまっている連邦は珍しかった。

ゼルディアは話を続けた。

「当然、それぞれの国には軍があります。文化も法律も異なりますし、議会同士が対立することも少なくありません。」

「それでも連邦として存続し、西側諸国の六大大国に数えられている。」

「それはなぜだと思いますか。」

誰も答えない。

ゼルディアは微笑みながら、自ら答えを口にした。

「抑止力です。」

「もちろん、小国にも上位超越者はいます。」

「一人、あるいは二人ほどの上位超越者を抱える国は決して珍しくありません。その存在だけで周辺諸国が軽々しく手を出せなくなることもあります。」

「ですが、それだけでは六大大国にはなれません。」

その声には、大商人として世界中の情勢を見てきた確信があった。

「六大大国は、それぞれ複数の上位超越者を抱えています。」

「アルディア王国も。」

「カルドニア王国も。」

「他の大国も同じです。」

「上位超越者という存在は、一人いるだけで戦局を覆す力を持っています。だからこそ、大国は一人ではなく、何人もの上位超越者を抱え、互いに均衡を保っているのです。」

そこでゼルディアは、人差し指を三本立てた。

「しかし、エルディオン連邦だけは少し事情が違います。」

「連邦全体で世界に知られる上位超越者は、たった三人。」

サンロが思わず息を呑む。

「たった……三人ですね。」

「ええ。」

ゼルディアは静かに頷いた。

「数だけを見れば、六大大国の中でも決して多くはありません。」

「それでもエルディオン連邦は、長年にわたり六大大国の一角として世界の均衡を保ち続けています。」

「つまり、その三人だけで他の六大大国と対等に渡り合えると、世界中が判断しているということです。」

部屋が静まり返る。

「だから誰も軽々しく攻め込めない。」

「勝てるか負けるかではありません。」

「勝ったとしても、その代償が大きすぎる。」

「上位超越者同士の戦いになれば、一人失うだけでも国力は大きく傾きます。その隙を別の大国に突かれれば、戦争に勝って国が滅ぶことすらあり得る。」

「だから、この十年ほどエルディオン連邦へ大規模な侵攻を仕掛けた国はありません。」

「国境での小競り合いすら、ほとんど起きていないのです。」

レインは腕を組み、小さく頷いた。

「均衡そのものを支えている三人……というわけですね。」

「その通りです。」

ゼルディアは満足そうに微笑んだ。

「そして、その三人のうちの一人が、アストレア魔導公国にいます。」

「《アストレアの魔女》。世界最高峰の魔導師です。」

サンロは思わず息を呑んだ。

その名は東方諸国にまで届いている。

戦場へ姿を現したという話だけで、一国が進軍を取りやめたという噂さえ耳にしたことがあった。

ゼルディアは机の上の書物を軽く撫でる。

「アストレア魔導公国は、エルディオン連邦を構成する国家の一つであり、世界最高峰の魔導国家です。」

「魔法理論、魔法陣、古代魔法、魔導具、失われた術式……魔導に関するあらゆる研究が、あの国へ集まります。」

「世界中から魔導師や研究者、学者が集まり、一生を研究へ捧げる者も珍しくありません。」

「中には古代文字だけを数十年研究し続けている学者もいます。」

ゼルディアは書物を持ち上げ、表紙へ視線を落とした。

「私は読めません。」

「ですが、アストレアなら話は別です。」

「この文字を読める人物がいる可能性は十分ありますし、たとえ読めなくても、どこの時代の文字なのか、どの文明で使われていたのか、魔法陣とどう関係しているのか。そのくらいなら調べられる研究者はいくらでもいるでしょう。」

彼女はゆっくりと書物を机へ戻した。

「だからこそ、私はアストレア魔導公国へ行くことをお勧めします。」

「この書物の価値を知るには、あの国以上に相応しい場所を私は知りません。」


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