面倒ごと
もちろんです。本文を基軸に、説明の重複を削り、テンポを上げつつ商業ラノベ風へ調整しました。
酒場を出ると、日はすでに西へ傾き始めていた。
大通りはまだ多くの人で賑わっていたが、世界商談会の熱気は少しずつ落ち着きを見せ始めている。商談を終えた商人たちが街を離れる一方で、最後の買い付けに走る者たちが店々を巡っていた。
その人混みを縫うように歩きながら、サンロは木箱を大切そうに抱えていた。
「本当に私までご一緒してよろしいのでしょうか。」
「この街で頼れる方に心当たりがないのでしたら、宿まででしたら構いませんよ。」
レインが穏やかに答えると、サンロは何度も頭を下げる。
その様子を見たピリカが木箱へ視線を向けた。
「でも、それを狙ってた人たちは、どうして価値があるって分かったんだろうね。」
「オークションへ出品されていた品です。落札した人間を調べることは、それほど難しくなかったのかもしれません。」
エレアの言葉に、サンロは表情を曇らせた。
「落札額はそれほど高くありませんでした。競り合った相手も数人だけだったのですが……。」
「値段ではなく、品そのものが目的だったのでしょう。」
レインが静かに言う。
「あの三人も、木箱以外には見向きもしませんでした。」
サンロは腕の中の木箱へ目を落とした。
「やっぱり、面倒な物を買っちゃったんじゃない?」
ピリカの率直な一言に、サンロは苦笑する。
「商人というものは、珍しい品を見ると、つい手が伸びてしまうものでして。」
「その結果、命まで狙われては割に合いませんね。」
レインの言葉に、サンロは返す言葉もなく苦笑した。
やがて一行は東区にある旧石造りの宿へ戻る。
扉を開けると、夕食にはまだ早い時間だったため、食堂は静かだった。厨房から煮込み料理の香りが漂い、奥では食器を片付ける音だけが響いている。
帳場に立っていたグラディウス・ヴェルドは、レインたちの後ろに見慣れない商人の姿を認めると、小さく眉を上げた。
「お帰り。今日は一人増えているな。」
「街を散歩していただけのはずなんですが。」
レインが答えると、グラディウスは口元を緩める。
「その言い方だと、また面倒事か。」
「否定はできません。」
「ほらね。」
ピリカが笑う。
「やっぱり面倒事だった。」
レインは苦笑しながら空いている席へ向かい、サンロも促されるまま腰を下ろした。
やがてグラディウスが茶を運んできて向かいへ座る。
「それで。」
レインは路地裏でサンロが襲われていたこと、狙われていたのは金ではなく木箱だったこと、そして中には古い書物と魔法陣が入っていることを順を追って説明した。
話を聞き終えたグラディウスは静かに頷く。
「見せてみろ。」
サンロは木箱を机へ置き、慎重に蓋を開けた。
古びた書物と、一枚の革紙。
描かれている魔法陣は複雑で、見慣れたものとは明らかに違っていた。
グラディウスは書物へ目を落としたまま短く言う。
「俺には分からん。」
そう言ってレインとピリカへ視線を向ける。
「二人は見覚えがあるのか。」
「似た文字を見た記憶があります。」
「私も。ばあちゃんの家で見た気がする。」
その返答を聞いたグラディウスは腕を組んだ。
「なら、ゼルディアに見せるのが一番だろう。」
サンロが思わず目を見開く。
「ライゼン三大商人の、ゼルディア・アルヴェシオン様ですか。」
「ああ。」
グラディウスは頷いた。
「あいつは珍しい品を扱う機会が多い。本人が知らなくても、心当たりくらいはあるだろう。」
レインも静かに頷く。
ガストンへ相談するより、この手の品はゼルディアへ持ち込んだ方が早い。
「明日、訪ねてみます。」
その一言に、サンロが身を乗り出した。
「私も同行させてください。」
「もちろんです。」
レインは穏やかに頷く。
「品の持ち主ですから、入手した経緯はサンロさんに説明していただく必要があります。」
サンロは安堵したように深く頭を下げた。
その様子を見ていたグラディウスが小さく笑う。
「なら、明日は早めに出ろ。ゼルディアも暇な人間じゃない。」
「分かりました。」
レインが答えると、グラディウスは立ち上がった。
「話は決まりだな。夕食までまだ時間がある。商人の分も用意しておこう。」
「ありがとうございます。」




