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英雄なのか?  作者: よろず
エルディオン連邦編
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191/212

荷物


数日後。


束の間の休息を楽しんだレインたちは、ピリカを連れてライゼンの街を歩いていた。


今日も大通りは多くの人で賑わい、商人や冒険者、旅人たちが絶え間なく行き交っている。露店から漂う香ばしい匂いに足を止めたり、珍しい魔導具を眺めたりと、ピリカは終始楽しそうだった。


「ライゼンって、歩いてるだけでも飽きないね。」


「まだ全部は見て回れていませんよ。」


エレアが微笑むと、ピリカは嬉しそうに頷く。


「じゃあ、明日も歩こう。」


そんな他愛ない会話を交わしながら裏路地へ入った、その時だった。


「返せ! それは大事な荷物なんだ!」


切羽詰まった叫び声が響き、三人は同時に足を止める。


視線の先では商人風の男が三人組に囲まれ、木箱を奪われそうになっていた。必死に抵抗した男は蹴り飛ばされ、石畳へ倒れ込む。


「邪魔だ。」


男の一人が木箱を抱え上げた瞬間、レインが静かに一歩前へ出た。


「その荷物を置いてください。」


三人組が一斉に振り返る。


「何だ、お前ら。」


答える代わりに、一人が短剣を抜いて飛び込んできた。


速い。


街のごろつきとは思えない踏み込みだった。


レインは半歩だけ身を開いて刃をかわし、手首を払って体勢を崩す。そのまま肩へ軽く掌を当てると、男は勢いのまま石畳へ転がった。


同時に残る二人も動く。


エレアが一人の剣を弾き、ピリカは木箱を抱えた男の懐へ潜り込むと、その腕を払って木箱を奪い返した。


三人は一瞬だけ互いに視線を交わすと、それ以上戦おうとはせず、路地裏の奥へ駆け去っていく。


レインは追わなかった。


逃げる背中を見送り、小さく目を細める。


「……街のごろつきではありませんね。」


「ええ。動きが訓練されています。」


エレアも静かに頷く。


「荷物だけが目的だったようですね。」


ピリカは木箱を抱えたまま首を傾げた。


「追わなくていいの?」


「ええ。」


レインは苦笑する。


「面倒な匂いがします。」


そう言って踵を返した、その瞬間だった。


「ま、待ってください!」


商人が慌てて駆け寄り、勢いよく頭を下げる。


「お願いします! どうか話だけでも聞いてください!」


レインは思わず小さく息を吐いた。


その様子を見たピリカが吹き出す。


「ほらね。面倒事だ。」


「……否定できません。」


レインは苦笑しながら商人へ向き直る。


「近くに酒場があります。立ち話では落ち着きませんし、そこでお話を伺いましょう。」


「ありがとうございます!」


商人は何度も頭を下げ、四人は近くの酒場へ向かった。


昼前の酒場はまだ空席が目立ち、店内は落ち着いた空気に包まれていた。


奥の席へ腰を下ろすと、商人は改めて深く頭を下げる。


「先ほどは本当に助かりました。私は東方諸国から来た商人、サンロと申します。」


「東方からですか。」


エレアが少し驚いたように目を見開く。


サンロは頷きながら、足元の木箱を大事そうに机へ載せた。


「商談を終えた帰りに、オークションでこれを手に入れました。」


留め具を外し、ゆっくり蓋を開ける。


中に収められていたのは、古びた書物と一枚の革紙だった。


レインは静かに書物を手に取り、ページをめくる。


その隣では、ピリカが革紙へ描かれた複雑な魔法陣をじっと見つめていた。


しばらくして、二人はほぼ同時に顔を上げる。


視線が合う。


「何か分かったんですか?」


エレアが尋ねる。


レインは少し考え込んでから首を傾げた。


「断言はできませんが……似た文字を見た記憶があります。」


「私も。」


ピリカが頷く。


「ばあちゃんの家で見たことがある気がする。」


サンロの表情が一気に明るくなる。


「本当ですか!」


「申し訳ありません。」


レインは静かに書物を閉じた。


「それ以上は分かりません。これだけでは判断できません。」


「そうですか……。」


落胆したサンロだったが、すぐに表情を和らげる。


「いえ、それだけでも十分な収穫です。」


レインは小さく頷き、席を立とうとした。


「それでは、私たちは――」


「お待ちください!」


サンロも慌てて立ち上がる。


「どうか、もう少しだけ力を貸してください!」


必死に頭を下げるサンロを見て、ピリカが肩を揺らした。


「結局、面倒事だったね。」


「……そのようです。」


レインは苦笑を浮かべると、改めてサンロへ向き直った。


「まずは事情を聞かせてください。」

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