表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄なのか?  作者: よろず
ノルガルト侯国内戦
185/239

婿入り?


 勲章を受け取り、一通りの挨拶を終えたレインたちは席を立った。


 年老いた執事が再び静かに扉を開く。


 国王は三人へ穏やかな笑みを向けた。


「今日は来てくれて感謝する。」


 三人が軽く一礼する。


「また、いつでも王城へ来てほしい。」


「歓迎しよう。」


「ありがとうございます。」


 エレアが代表して頭を下げ、レインも小さく頷く。


 ピリカは満面の笑みで大きく手を振った。


「またねー!」


 その声を最後に扉が静かに閉まり、執事に案内された三人の足音は廊下の奥へと消えていった。


 部屋には王家の者たちだけが残る。


 しばらく誰も口を開かなかった。


 先ほどまで語られていたのは、一国の命運を左右する機密ばかりである。


 重い沈黙のはずだった。


 それでも、不思議と息苦しさはなかった。


 国王はゆっくりと椅子へ身を預け、小さく息を吐く。


「……いい青年たちだった。」


 その一言に、第一王妃が優しく微笑んだ。


「ええ。本当に。」


「あれほどの功績を挙げながら、一度たりともご自身を誇るようなことはありませんでした。」


 ルークも苦笑する。


「最後に頼まれたのは口止めでした。」


「普通なら武功を世へ広めてほしいと願うものです。あそこまで徹底して名を伏せようとする方々は、私も初めて見ました。」


「それが、あやつらの立場なのじゃろう。」


 低く口を開いたのはバルドリックだった。


 腕を組んだまま窓の外へ視線を向ける。


「超越者を三人討ち取り、一国の兵站を崩壊させ、結果として一国を救ってみせた。それでも己の功績とは思わぬ。」


 一度言葉を切る。


「いや……功績と思うことすら許されぬ立場なのかもしれんな。」


 国王は静かに頷いた。


「アルカディア王国とは、実に恐ろしい国よ。」


 夕日に染まる王都へ視線を向ける。


 復興へ励む人々の姿が、小さく見えていた。


「……余の勘に過ぎぬが。」


 誰も言葉を挟まない。


「あの三人は、いずれ西側諸国の中心へ立つ。」


 静かな一言だった。


 しかし、その場の誰も笑わない。


 ルークが穏やかに問い返す。


「中心……ですか。」


「ああ。」


 国王は苦笑した。


「根拠は何もない。」


「政治でも軍事でもない。」


「ただ、そうなる気がしてならぬのだ。」


 バルドリックが小さく笑う。


「王の勘ですかな。」


「そうだ。」


 国王も穏やかに笑みを浮かべた。


「余の勘など、当てにならぬことも多い。」


「ですが。」


 静かに口を開いたのはシグリアだった。


 全員の視線が自然と集まる。


「私も、同じように感じました。」


「ライゼン自由都市連合のガストン様が信頼を寄せ、イゼルダ様までもが王家を託した理由が、今日お会いして少し分かった気がいたします。」


 一呼吸置いて続ける。


「力だけではありません。」


「あの方々は、ご自身の力を誇ろうとなさいません。」


「だからこそ、人は自然と惹かれてしまうのでしょう。」


 第一王妃は嬉しそうに頷いた。


「シグリアも同じことを感じましたか。」


「はい、お母様。」


 国王は満足そうに笑う。


「やはり余だけではなかったか。」


 そして、何気ない口調で続けた。


「惜しいものだな。」


「……もしノルガルトにあのような若者がおれば、どれほど心強かったことか。」


 少し間を置き、


「それならシグリア。」


「はい。」


「レイン殿を婿に迎えるというのはどうだ。」


 部屋の空気が、一瞬で止まった。


「…………え?」


 数拍遅れて意味を理解したシグリアの頬が、みるみる赤く染まっていく。


「お、お父様!」


「何を仰っているのですか!」


「そのようなお話を急に……。」


 必死に否定しようとするものの、言葉はどこか上擦っていた。


 そんな娘を見て、国王は愉快そうに目を細める。


「嫌ではないようだな。」


「ち、違います!」


「そういう意味ではありません!」


「では、どういう意味だ?」


「そ、それは……。」


 答えに詰まり、助けを求めるように母たちを見る。


 しかし返ってきたのは、期待した助けではなかった。


「あらあらまあまあ。」


 第一王妃が口元へ手を添え、嬉しそうに微笑む。


「シグリアも、そういう年頃ですものね。」


「まあまあ。」


 第二王妃も目を細める。


「お似合いではありませんか。」


「お、お母様まで!」


 顔を真っ赤にするシグリアを見て、エイラが勢いよく立ち上がった。


「だったら私も!」


「私もレインさんのお嫁さんになる!」


「エイラ!」


 思わずシグリアが声を上げる。


「旅の途中でいっぱい遊んでもらったもん!」


「お菓子も買ってくれたし、いろんなお話もしてくれたし!」


「すっごく優しかったもん!」


 その無邪気な笑顔に、ハルヴェンが吹き出した。


「エイラ、それはお嫁さんとは少し違うと思うぞ。」


「そうなの?」


「そうだ。」


「でも好きだよ?」


「それは十分伝わった。」


「じゃあいいよね!」


「いや、そこは良くないかな。」


 兄妹のやり取りに、部屋中へ笑い声が広がる。


 恥ずかしさのあまり俯くシグリアの肩を、第一王妃が優しく撫でた。


「ふふっ。こんなに慌てるシグリアを見るのは久しぶりです。」


「本当ですわ。」


 第二王妃も穏やかに笑う。


「戦が終わってから、ようやくこんな話ができるようになりましたね。」


 その言葉に、誰もが自然と笑みを浮かべた。


 少し前まで、この部屋を満たしていたのは張り詰めた空気だけだった。


 だが今は違う。


 王も王妃も、王子も王女も、肩書きを忘れて笑い合っている。


 王城の一室には、戦が始まる前には当たり前だった笑い声が、ようやく戻ってきていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ