当然バレた
エレアは額へ当てていた手をゆっくりと下ろし、もう一度だけ小さく息を吐いた。
そして軽く咳払いを一つ。
「……失礼しました。」
視線を向けると、部屋の隅ではいつの間にかピリカがエイラやハルヴェン、第二王子に囲まれ、魔道具の話で楽しそうに盛り上がっている。
先ほどまで重苦しかった空気が嘘のように和らいでいた。
その光景へ苦笑を浮かべながらも、エレアは改めて国王へ向き直る。
「ここから先は、本来であれば口外できない内容です。」
静かな一言だった。
だが、その場にいる全員の表情が自然と引き締まる。
「ですが、ノルガルト侯国の将来に関わる話でもあります。ここにいる皆様であれば、お伝えしても問題ないと判断しました。」
一拍置き、エレアは静かに口を開く。
「……お察しのとおり、私たちはアルカディア王国の関係者です。」
室内に驚きはなかった。
国王も、二人の王妃も、シグリアも、ルークも、そしてバルドリックも、静かに頷くだけだった。
やはりそうだったか。
誰もが心のどこかで抱いていた確信が、今ここで裏付けられたに過ぎない。
「アルカディア王国としては、ノルガルト侯国がカルドニア王国との緩衝国であり続けることを望んでいます。」
「……当然だな。」
国王は静かに目を閉じた。
ノルガルト侯国が滅べば、次にカルドニア王国と国境を接するのはアルカディア王国となる。
国家として考えれば、その事態を避けたいのは当然の判断だった。
「今回、私たちへ与えられた任務は二つです。」
エレアは淡々と続ける。
「一つは、反乱軍の物流網を機能不全に陥らせること。」
「そしてもう一つは、偽装村に蓄えられた兵糧や武具を失わせることでした。」
バルドリックの目がわずかに細められる。
「つまり……。」
「はい。」
エレアは迷いなく頷いた。
「私とピリカで、二つの偽装村を壊滅させました。」
その瞬間、部屋の空気が止まる。
「村を守っていたカルドニア王国の超越者とも交戦し、それぞれ討ち取っています。」
静かな口調だからこそ、その内容がより重く響いた。
王妃たちは息を呑み、シグリアも思わず目を見開く。
壁際のルークでさえ、わずかに表情を変えた。
そしてエレアは隣に座るレインへ視線を向ける。
「レインは単独でカルドニア王国へ潜入し、物流そのものを停止させました。」
誰も言葉を発しない。
「その際、カルドニア王国側の超越者とも交戦し、これを討伐しています。」
三人。
しかも、わずか一日。
カルドニア王国は一度に三人もの超越者を失ったことになる。
「しかも、誰に討たれたのかすら把握できていないはずです。」
バルドリックは腕を組んだまま、静かに息を吐いた。
「……なるほど。だから反乱軍は、あれほど急速に崩れたのか。」
国王も静かに頷く。
超越者は一国の戦略兵器にも等しい存在だ。
それを三人同時に失い、その理由すら掴めない。
混乱しないはずがなかった。
エレアはさらに続ける。
「今回、ノルガルト侯国への工作を主導していたカルドニア王国内の派閥も、その責任を問われるでしょう。」
「失脚は避けられません。」
「そうなれば、カルドニアへ逃れた宰相や反乱貴族たちも歓迎はされないはずです。利用価値を失った以上、立場は大きく変わるでしょう。」
長い沈黙が流れた。
やがて国王はゆっくりと立ち上がる。
「……そうであったか。」
その声には驚きではなく、深い感謝が滲んでいた。
「余たちが今こうしてここに立っていられるのは、王家を守ってくれたからだけではない。」
「君たちは反乱軍の兵站を断ち、この戦そのものを終わらせてくれた。」
そう言って、国王は静かに頭を下げた。
続いて二人の王妃、シグリアたち王族も席を立ち、深く一礼する。
バルドリックも、壁際に控えていたルークも頭を垂れた。
王家と、この国を支える者たち全員からの礼だった。
「ノルガルト侯国を代表し、心より感謝申し上げる。」
エレアは慌てて立ち上がろうとするが、国王は穏やかに手を上げて制した。
「もう一つある。」
国王は静かに微笑む。
「本来であれば、国家として正式に報いるべき功績だ。しかし、それは君たちの立場が許さぬのだろう。」
一度言葉を切り、穏やかな声で続けた。
「よって非公式ではあるが、ノルガルト侯国最高勲章を三人へ贈りたい。」
「アルカディア王国の関係者としてではない。」
「この国を救ってくれた、一人の冒険者として受け取ってほしい。」
そして少し苦笑する。
「本来なら褒賞金も用意したかった。だが、今の国には復興を最優先すべき責務がある。壊れた街を立て直し、この戦で家族を失ったすべての者たち……反乱軍兵の遺族も含め、そのために使いたい。」
「どうか許してほしい。」
レインは静かに首を横へ振った。
「問題ありません。」
短い返答だった。
その一言だけで十分だった。
エレアも柔らかく微笑み、部屋の隅では事情を知らないピリカが「えへへ」と照れくさそうに笑っている。
レインは改めてその場にいる全員を見渡した。
「最後に、一つだけ。」
全員の視線が静かに集まる。
「今日、この部屋で交わした話は、どうか内密に。」
国王は力強く頷いた。
「無論だ。」
「ここにいる全員、墓まで持っていこう。」
誰一人、異を唱える者はいなかった。
それは、この場にいる全員の固い誓いだった。




